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【タコピーの原罪】第13話「タコピーの原罪」あらすじから結末まで全てネタバレ解説

ずっちー

第12話「2022年のきみへ」 時間を遡り再びまりなちゃんと出会ったタコピーは、「ごみくそ」と呼ばれながらも彼女をハッピーにしようと奮闘します。しかし、まりなちゃんの過酷な家庭環境や、東くんとの関係の中にちらつくしずかちゃんの過去の自殺未遂の噂など、新たな不穏な影が差し始めるのでした。

【タコピーの原罪】第13話「タコピーの原罪」をネタバレありで解説する

前話でタコピーがまりなとの最初の出会いに時間を遡るという衝撃的な展開を迎えましたが、第13話「タコピーの原罪」では、その新たな時間軸でまりなが抱える歪んだ決意、それに応えようとするタコピーの純粋すぎる暴走、そしてこの物語の根幹を揺るがす「タコピーの原罪」という言葉の意味が、息をのむように描かれます。

まりなの決意とタコピーの誤解

物語は、まりなと東、それぞれの内に秘めた強い想いから始まります。東が「久世さんには 僕しか いないんだ」としずかへの献身を誓う一方で、まりなの母親は東を家に招くために久しぶりに腕を振るい、食卓にはご馳走が並びます。まりなもまた、「小学校の ときから 惹かれてた」「僕にしか 頼れないんだ 僕にも 彼女しか いないって わかった だから」と宣告されたにも関わらず、東への深い依存にも似た感情を抱いている様子が描かれます。

タコピーが東を呼びに行ったところ、東と一緒にいた人物(しずか)のただならぬ雰囲気に気圧され、連れてくることができませんでした。時同じくして、まりなが手に包丁を握りしめ、母親を殺害してしまっている描写が描かれます。そして「小4のとき ちゃんと 殺さなきゃだった 久世しずかを・・・」と、心の奥底に押し込めていたであろう、しずかへの禍々しいまでの憎悪を口にするのです。

このまりなの言葉を、タコピーはあまりにも純粋に、文字通りに受け取ってしまいます。「殺せば いいんだっピね!」と、何の疑いもなく問いかけ、「小4のときに 久世しずか”を 殺す?って すれば 大ハッピー 時計なら 簡単だっぴよ!」と、禁断のひみつ道具「大ハッピー時計」による時間遡行と殺人を示唆します。そんなタコピーの反応に、まりなは「・・・あは やっぱ 名前くらい つけてやれば 良かった」と、どこか虚ろで乾いた笑みを浮かべるのでした。

ハッピー星の掟とタコピーの記憶消去

まりなの願いを叶えるため、タコピーが「大ハッピー時計」を起動させ、小学4年生のしずかを殺害しようと時間を遡った瞬間、突如として「ハッピーママ」を名乗る上級ハッピー星人らしき存在が介入します。ハッピーママは、タコピーが「最も大切な ハッピー星の 掟を破った」と断じ、罰として二度と故郷の星には戻れず、これまでの全ての記憶を消去され、生まれたままの「ハッピーな状態」に戻された上で地球で「生まれ変わる」ことになると宣告します。

タコピーは、「そんなの ダメだっピ」と必死に抵抗します。「大丈夫だっピ まり■ちゃん ぼくが必ず きみを ハッピーに するっピ」と、たとえ記憶を失ったとしても、まりなを幸せにしたいという一心でハッピーママに立ち向かおうとしますが、その力はあまりにも強大で、タコピーの記憶は徐々に薄れ始めてしまいます。

「一体だれに 笑ってほしいん だっピっけ…」と、彼にとって最も大切だったはずの目的すら、おぼろげになっていくのでした。

歪んだ使命感と記憶の混濁

全ての記憶が消え去ろうとする中で、しかし、タコピーの心にはある強烈な思いだけが焼け付いたように残りました。それは、「久世しずかを 殺さなきゃ」という、歪んでしまった使命感でした。彼は断片的な記憶を繋ぎ合わせ、「あの時 すべて 思い出した」「ひどいことをした まりなちゃんは あれは 悪くなかった? 久世しずかの せいで まりなちゃんは パパを 東くんを 大事な ママを 失った」「殺さなきゃ 久世しずかは 悪だ」と、まりなを不幸のどん底に突き落とした元凶はしずかであると結論づけ、彼女への殺意を新たにするのです。

皮肉なことに、そんな殺意を抱くタコピーの脳裏には、かつて空腹で苦しんでいた自分に、「給食の パンいる?」と優しくパンを差し出してくれた「しずかちゃん」の記憶もまた、混濁しながら浮かんでは消えていくのでした。

原罪との再会

記憶と使命感が混乱するタコピーの前に、東が現れます。その瞬間、タコピーはパンをくれた優しい少女の面影と、目の前にいる東の姿を誤って重ね合わせてしまいます。「あのとき ぼくに バンをくれた ”じずかちゃん”は―― 東くん・・・!」と。この認識の歪み、致命的な誤認こそが、タコピーが地球で最初に犯してしまった、そして繰り返してきた「原罪」そのものなのかもしれません。まりなを救いたいという純粋な善意が、結果として全てを最悪の方向へと歪めてしまう、その悲劇的なサイクルの始まりを暗示しているかのようでした。

まとめ【タコピーの原罪】第13話「タコピーの原罪」を読んだ感想

第13話「タコピーの原罪」は、そのタイトルが示す通り、物語の核心に深く切り込むエピソードであり、読者の心に強烈な問いを投げかけてきました。もし仮に、私たちが記憶を消してこの物語の12話から読み始めたとしたら、登場人物たちへの印象はまるで違ったものになっただろうと気づき、一種の戦慄を覚えます。

想像してみてください。物語が、顔に大きな傷を持つ女子高生・雲母坂まりなちゃんと、ハッピー星から来たタコ型宇宙人タコピーの出会いから始まったとしたら。まりなちゃんの過酷な家庭環境に対し、タコピーが持ち前のポジティブさで奇妙な解釈を加え、まりなちゃんは呆れつつも彼を受け入れる。そして、タコピーの影響か、まりなちゃんの日常には少しずつ明るい兆しが見え始め、同級生の東くんとの間に恋が芽生え、荒んでいた母親との関係も改善していくかのように見える。そんな矢先に、「久世しずか」という転校生が現れるのです。まりなちゃんにとっては、父を奪い、母を狂わせ、自らの人生をめちゃくちゃにした元凶とも言える存在。彼女のせいで、まりなちゃんは東くんも、母親も、何もかも失ってしまう。「ちゃんと殺しておくべきだった。小4の時、きっちりと、久世しずかを」。母の亡骸の傍らでそう後悔するまりなちゃんの言葉を受け、タコピーは「わかったっピ!殺せばいいんだっピね!」と、まりなちゃんをハッピーにするために過去へ旅立つ…。この視点から見れば、久世しずかこそが全ての悲劇の根源であり、排除すべき「悪」として映るのではないでしょうか。

しかし、私たちは1話から物語を読んできました。まりなちゃんの複雑な背景や苦悩に触れ、同情の念を抱きつつも、その行動の危うさや、しずかちゃんに対する一方的な攻撃性から、彼女を単純な被害者として見ることはできませんでした。一方で、しずかちゃんが受けてきた仕打ちや、彼女なりの葛藤を知るにつれ、彼女にもまた同情すべき点があると感じてきたはずです。

タコピーは、最初に優しくしてくれた相手を「善」と認識する、非常に純粋な存在です。しずかちゃんがパンをくれたから、彼女は「善」。しずかちゃんをいじめるまりなちゃんは「悪」。しかし、時間を遡り、まりなちゃんが(タコピーにとって)優しさを見せれば、今度はまりなちゃんが「善」となり、彼女を苦しめる(とタコピーが判断した)しずかちゃんが「悪」となる。この「タコピーの原罪」というタイトルが示すものは、キリスト教における「原罪」の解釈の一つ、すなわち『知恵の実を食べたことで善悪の判断ができるようになった』という点と深く響き合います。タコピーは、まさに自分自身の経験や刷り込みに基づいて、目の前の事象に「良い」「悪い」というレッテルを貼り、行動しているのです。記憶を失い、置かれた状況が変われば、かつての「善」が「悪」に、そして「悪」が「善」に反転し、正反対の行動を純粋な正義感から行ってしまう。

これは、タコピーの知能が低いとか、主体性がないといった単純な話ではありません。この作品は、私たちの「善悪の判断」がいかに曖昧で、最初の出会いや経験といった「刷り込み」に強く影響されるものであるかを、痛烈に描き出しているように思えます。

そして、この善悪のテーマは、さらに根深い問題へと繋がっていきます。それは、物語の主要な子供たち――しずかちゃん、まりなちゃん、東くん――が、誰一人として明確に「自分の親が悪い」と断じていない点です。彼らはそれぞれ、親の行動によって深く傷つき、人生を歪められていながらも、その責任を親だけに帰することができません。なぜなら、多くの子にとって親は「最初に優しくしてくれた存在」であり、無条件の「善」として心の奥深くに刻まれているからです。どんなに辛い仕打ちを受けても、「親だけが悪いわけではない」「自分にも原因があるのかもしれない」と、他者を攻撃したり、自分自身を責めたりしてしまう。この痛ましいまでの子供たちの姿は、物語の開始当初から、私たち読者にも突きつけられてきたのではないでしょうか。

私たちが1話から物語を読み進める中で、無意識のうちにしずかちゃんに肩入れし、まりなちゃんの行動に眉をひそめてしまったように、私たち自身もまた、物語の語られ方や、最初に提示される情報によって、いとも簡単に善悪の判断を揺さぶられてしまう存在なのかもしれません。この「タコピーの原罪」という作品は、そうした人間の認識の危うさ、そして「最初の優しさ」という刷り込みが持つ抗いがたいまでの影響力を、静かに、しかし容赦なく私たちに示しているように感じられてなりません。

この考察は、あくまで一個人の感想に過ぎませんが、この作品が持つ多層的なテーマ性と、読者の心に深く爪痕を残す力に、改めて圧倒される思いです。

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ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
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