【問題な王子様】1話ネタバレ完全版

ずっちー

【問題な王子様】1話をネタバレありで解説する

物語の幕開け、それは主人公エルナ・ハルディが直面する、あまりにも過酷な現実と、もう一人の主人公である「問題な王子様」ビョルン・デナイスタの退廃的な日常の鮮やかな対比によって描かれます。この第1話で、二人の運命がどのように動き出すのか、その詳細を深く掘り下げていきましょう。

絶望の淵に立つ淑女、エルナ

エルナ・ハルディは、高台に建つバーデン家の邸宅から村の全景を見下ろせるような、穏やかながらも誇り高い環境で、善良で良い淑女として育ちました。しかし、彼女の平穏は、愛する祖父の突然の死によって打ち砕かれます。祖父亡き後、バーデン家の財産は、当時の理不尽な相続法――息子のいない男爵の財産は甥に相続される――によって、遠縁の親戚であるトーマス・バーデンの手に渡ることが決定的となっていました。この田舎の邸宅一軒が全財産と言っても過言ではないバーデン家にとって、それは生活の場を追われることを意味していました。

エルナは、この危機的状況を打開するため、以前から弁護士に相談していました。しかし、返ってくるのは「相続法とはそういうものだ」という誠意のない言葉と、「バーデン氏に事情を説明し、慈悲を求めるのが最善」という絶望的な助言ばかり。それでもエルナは諦めず、トーマス・バーデンに手紙を書くという苦渋の決断をします。

その返信は、エルナの僅かな望みを打ち砕くものでした。長々と書かれた手紙の内容は、エルナの期待とはかけ離れた、「もしエルナが自分の妻になってくれたら、特別に寛容になってもいい」という、侮辱的とも言える提案だったのです。父親ほども年の離れたトーマスからの、窮地に追い込まれた親戚に対するこの非道な申し出に、エルナは「とんでもない」と独り言を漏らし、手紙を睨みつけます。窓の外に広がる、リンゴの花が咲く果樹園や黄色い桜草で覆われた丘の美しい風景とは裏腹に、エルナの心は絶望と怒りに満たされていました。

それでも、エルナは気丈に振る舞います。祖母であるバーデン男爵夫人には真実を告げず、弁護士との相談も「まだです」「今週が終わる前には必ず会ってみるつもりです」と嘘をつき、心配をかけまいとします。しかし、一ヶ月の間にすっかり老け衰弱してしまった祖母の姿を見るたびに、エルナの胸は痛みました。夫を失い、残り少ない財産まで他人同然の親戚に渡すことになった祖母の心痛は計り知れません。エルナは、この家を守り、祖母に穏やかな日々を取り戻すため、固く決意を新たにするのでした。そして、トーマス・バーデンの提案を拒絶したエルナの脳裏に、長い間忘れていた「お父様」の存在が浮かび上がります。それが、彼女の最後の希望となるのでしょうか…。

「王室の毒キノコ」ビョルンの退屈な日常

一方、レチェン王国の首都では、大公ビョルン・デナイスタが、大公邸のそばを流れるアビィト川で行われるボートの練習の騒音で目を覚まします。「元気いっぱいの狂った奴らだ」と悪態をつきながらベッドを出た彼の日常は、退廃と倦怠に満ちています。タブロイド紙には「王室の毒キノコ、このままでいいのか」といった見出しで彼の写真が掲載され、弟である王太子レオニードはそんな兄の行く末を案じています。

ビョルンは、貴族たちのボート競技を「無駄に汗をかく儚いこと」と一蹴し、「溢れ出る力が抑えきれないなら、むしろ女でも抱け」と嘯きます。そんな彼のもとに、執事のグレッグが、王太子の来訪を告げます。レオニードが持ってきたタブロイド紙に目を通したビョルンは、「毒キノコ」という新たなあだ名に眉をひそめるものの、写真写りが良いことには満足している様子。

そこへ、レオニードが、ビョルンの元妻であるグレディス・ハードフォートがレチェンに戻ってくるという情報を慎重に伝えます。かつては国中から愛された美しい王太子妃でありながら、夫に裏切られ子供まで失った悲運の女性。彼女の帰還は、社交界に大きなゴシップを提供することになるでしょう。そして、元夫であるビョルンがそれにどう関わっていくのか。ビョルンは「さあな」とレオニードをはぐらかし、どこか虚無的な表情でリンゴをかじります。「まさに春。毒キノコがすくすく育つ季節だ」という彼の言葉は、エルナの置かれた過酷な現実とは対照的に、どこか投げやりで、それでいて不穏な未来を暗示しているかのようでした。

第1話は、このように、絶望的な状況の中でかすかな希望を見出そうとするエルナと、華やかでありながらも退廃的な日常を送るビョルンという、全く異なる世界に生きる二人の姿を鮮やかに描き出し、彼らの運命がどのように交錯していくのか、読者の期待を大きく膨らませて幕を閉じます。

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ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
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