【傷ついた心に帰る場所はない】1話あらすじから結末まで全てネタバレ解説

ずっちー

姉であるパールのための「血液提供者」として、この世に生を受けた少女、ベラ。

彼女の人生は、輝かしい光を浴びる姉の影そのものでした。家族からの愛情はすべてパールに注がれ、ベラはまるでそこに存在しないかのように、息を潜めて生きてきたのです。心を寄せた恋人のドミニクでさえ、その優しさの裏には、彼女がパールに血を分け与えるという打算がありました。

このような透明人間のような日々に心は蝕まれ、ついに絶望の淵に立ったベラは、18歳の誕生日を境に、全てを捨てて未知の世界へ飛び出す決意を固めます。彼女が選んだ唯一の逃げ道、それは家族に一切を告げず、厳格な規律の世界である海兵隊に入隊することでした。これは、名前すらまともに呼ばれなかった一人の少女が、初めて「自分」という存在を掴み取ろうとする、壮絶で痛ましい物語の始まりです。

【傷ついた心に帰る場所はない】第1話をネタバレありでわかりやすく解説する

自分の人生を掴むための第一歩

物語の幕開けは、緊張感が漂う海兵隊の募集事務所です。壁に貼られた勇ましいポスターとは裏腹に、事務所内の空気はどこか沈んでいます。今年は女性の志願者が極端に少なく、担当者も頭を抱えている様子が伝わってきます。

その静寂を破るように現れたのが、主人公のベラでした。彼女は震える心を抑えつけ、絞り出すように、しかし力強い意志を込めて「私は志願したい」と告げます。

応対したのは、百戦錬磨の風格を漂わせるジェミー軍曹と名乗る女性海兵。彼女はベラの提出した書類に目を通し、その並外れて優秀なスコアに一瞬目を見張ります。しかし、すぐに厳しいプロの顔つきに戻り、現実を突きつけるのです。

「でもこれはただの訓練キャンプの夢物語じゃない」

その言葉は、単なる脅しではありません。軍隊という過酷な世界で命を落とす者、心を壊す者を数多く見てきたからこその、忠告であり、ベラの覚悟の深さを測るための問いかけでもありました。

ですが、ベラの決意は、そんな言葉で揺らぐほど生半可なものではありません。「私はこれが何なのかしっかりわかっている」と、彼女は軍曹の目をまっすぐに見つめ返します。その瞳の奥には、これまで耐え忍んできた筆舌に尽くしがたい苦しみと、この場所でしか自分の人生を切り拓けないという、悲壮で切実な響きが込められていたのです。

髪に込めた決意表明

ベラは続けます。高校を卒業し、法的に自分の人生を自分で決定できる年齢になったのだと。これまで何一つ自分の意思で選ぶことが許されなかった彼女にとって、この「18歳」という年齢は、自由への唯一の扉でした。

そして、「入隊したいと確信しています」という言葉と共に、彼女は誰もが息をのむ行動に出ます。おもむろにカバンから取り出したハサミで、長く伸ばしていた自身の髪を、一切のためらいなく切り落としたのです。

ざくり、と音を立てて床に落ちる髪束。それは、虐げられ、搾取され続けた過去の自分との決別を意味する儀式でした。女性らしさの象徴ともいえる長い髪を自らの手で断ち切ることで、彼女は性別を超えた一人の人間として、何者にも屈しない強さを手に入れるのだと、無言のうちに宣言したのです。彼女の常軌を逸した、しかし純粋な覚悟を目の当たりにしたジャミー軍曹たちの態度は一変します。

「ベラ、軍へようこそ。ここからは私がサポートします」

その声は温かく、初めて彼女を一人の人間として認め、迎え入れてくれた瞬間でした。

ベラの胸の内には、熱い想いがマグマのように渦巻いています。

「入隊したいんです。強くなりたい。私は自分のために生きたい」

これは、誰かのための「部品」や「道具」としてではなく、ベラという一人の人間として生きていくための、魂の叫びそのものだったのです。

逃れられない「道具」としての運命

しかし、ようやく差し込んだ一筋の希望の光は、あまりにも無情に、そして迅速にかき消されてしまいます。入隊手続きを終え、未来への期待を胸に軍の施設から一歩を踏み出したベラ。その目の前に立ちはだかったのは、恋人のドミニクでした。彼は有無を言わさずベラの腕を掴むと、抵抗する彼女を力ずくで車に押し込み、けたたましいエンジン音と共に走り去ります。行き先は、彼女が最も逃げ出したかった場所、病院でした。

理由は、あまりにも残酷な一言に集約されています。

「きみの姉さんは病院にいる。彼女は今すぐ輸血が必要だ」

そうです、ベラがどれだけ自分の人生を歩もうと決意しても、家族にとって彼女はパールを生かすための「血袋」、ただの生命維持装置でしかないのです。自由への道がいかに険しく、そして遠いものであるかを、彼女は骨の髄まで思い知らされることになります。

病院の冷たいベッドの上で、意識が朦朧とするベラに、一人の女性医師が優しく声をかけます。

「ほら、このキャンディを食べて。今月で3回目の輸血になります。自分を傷つけようとしているの?家族はどこにいるの?」。

医師の言葉には、職業的な義務を超えた人間としての純粋な心配が滲み出ています。この短い会話から、ベラがこれまでどれほど頻繁に、そして自身の命を危険に晒すほどの無理な輸血を強いられてきたのかが、痛いほど伝わってきます。

家族という名の支配者たち

ドミニクは、彼女の変わり果てた髪型に気付き、驚きと戸惑いの表情を浮かべます。その直後、病室のドアが乱暴に開けられ、母のカレン、父、そしてヘンリーという人物が姿を現しました。彼らの目に、娘を心配する色は微塵もありません。

母親のカレンは、ベラの顔を見るやいなや、何の躊躇もなくその頬を思い切り平手打ちします。乾いた破壊音が病室に響き渡りました。そして、憎悪と侮蔑に満ちた声で、こう言い放つのです。

「いったいどこにいたの?何を企んでるの?」

娘の安否を気遣う言葉は一切なく、あるのはただ、自分の支配下から逃れようとしたことへの烈火の如き怒りだけ。それは、ペットが飼い主を裏切った時に向けるような、人間に対するものとは思えない感情でした。

前述の通り、医師が示した心からの優しさとはあまりにも対照的な、家族の冷酷で暴力的な態度。この異常極まりない光景は、ベラが「家族」という名の檻の中で、どれほど深く暗い闇に囚われているのかを読者に強く印象付け、物語は衝撃的な形で幕を閉じるのでした。

【傷ついた心に帰る場所はない】1話を読んだ感想(ネタバレあり)

第1話を読み終えて、まず感じたのは胸をえぐられるような痛みと、主人公ベラに対する強い同情でした。彼女が置かれている状況は、単に「家庭環境が複雑」という言葉では片付けられないほど過酷で、読んでいて何度も息が詰まりそうになりました。家族から愛されるどころか、その存在価値を姉のための「道具」としてしか認められない人生。そんな彼女が、全てを懸けて自分の人生を歩もうと勇気を振り絞る姿には、心の底から「頑張れ」とエールを送りたくなります。

特に、ベラが自らの髪を切り落とす場面は、この物語の象徴的なシーンとして強烈に心に残りました。あれは単なる髪ではなく、彼女がこれまで強いられてきた「虐げられる少女」という役割そのものだったのだと感じます。それを自らの手で断ち切る行為は、過去の自分を殺してでも新しい自分として生まれ変わるという、壮絶な決意の表れに見えました。ようやく手に入れた自由への切符に、私も自分のことのように心が震えるほどの喜びを感じました。

だからこそ、ラストの展開には言葉を失います。天国から地獄へ突き落とされるとは、まさにこのことでしょう。せっかく掴んだ希望の糸が、いとも簡単に断ち切られ、待ち受けていたのはまたしても家族からの暴力と罵倒。光が見えた瞬間に、それまでよりもさらに深い絶望の淵に沈められたような感覚に陥りました。彼女を人間として心配してくれる医師の存在が、この暗黒の世界における唯一の救いですが、この歪んだ家族の支配からベラは本当に逃れることができるのでしょうか。物語の根幹をなす「自分の人生を取り戻す」というテーマの困難さが初回から強烈に描かれており、彼女の未来がどうなるのか、続きが気になって仕方がありません。

【傷ついた心に帰る場所はない】1話のネタバレまとめ

  • 姉の血液提供者として生きてきたベラは、18歳を機に海兵隊への入隊を決意する。
  • ベラは自らの髪を切って覚悟を示し、一度は入隊を認められる。
  • しかし、軍の施設を出た直後に男に捕まり、輸血のために強制的に病院へ連行される。
  • 病院に現れた母親に平手打ちされ、「何を企んでいるのか」と激しく詰問されるところで物語は終わる。

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コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
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