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【変な地図】トリック・伏線完全解説(ネタバレあり)

ずっちー

『変な地図』を読み終え、その緻密なプロットと衝撃的なトリックに圧倒された方も多いのではないでしょうか。特に、大里社長の不可解な死と、栗原が追う古地図の謎という、一見無関係に見える二つの事件が複雑に絡み合い、最後に一つの真相へと収束していく構成は見事でした。

しかし、物語が巧妙であればあるほど、「あの伏線はどこで回収された?」「殺害トリックの詳細は?」といった疑問が残ることもあるでしょう。この物語の魅力は、結末を知った上でもう一度読み返すと、何気ない描写すべてが真相に繋がっていると気づかされる点にあります。

この記事では、物語の核心である「大里社長殺害トリック」の詳細と、作中に巧妙に散りばめられた「伏線」の数々を、ネタバレありで徹底的に解説します。

大里社長殺害トリックの完全詳細(ネタバレ)

物語前半の最大の謎である、大里幸助社長の死。当初は、泥酔した社長が誤ってトンネルに侵入した「人身事故」 として処理されました。しかし、実際にはこれは極めて冷酷かつ巧妙に計算された「計画殺人」でした。後に、帆石水あかりが栗原に語った推理 に基づき、その恐るべき全貌を解き明かします。

犯人が使用した「Y字型の道具」の役割

事件現場、すなわち第三非常口の近くには、奇妙な金属製の道具が残されていました 。これは、物干し台の土台などに使われる、両側に三つずつ突起がついた「Y字型のつっかえ棒」 でした。この道具こそが、この殺害トリックの核となるものです。

犯人(スガワラ) はこの道具を使い、あらかじめ泥酔させて抵抗できない状態にした大里社長を、第三非常口のすぐそば、線路脇の待避スペースに「立たせた」状態で固定しました 。具体的には、大里社長の腕などをY字の先端部分で固定し 、電車が通過するその瞬間に、体が線路側に突き出される(あるいは強風で倒れ込む)ように仕掛けたのです。

なぜ運転士は「いきなり人が現れた」のか

これが、この殺害トリックの最も恐ろしい核心部です。大里社長は、始発電車が来る直前まで、「線路上」にはいませんでした。

彼は、第三非常口の扉のすぐ横にある、壁のくぼみ(待避用のわずかなスペース)に、Y字の道具で固定されて隠されていました 。電車のヘッドライトがトンネル内を照らしても、非常口の壁が死角となり、運転士からは大里社長の姿を直前まで認識することは不可能だったのです。

そして、電車が第三非常口を高速で通過するまさにその瞬間、固定されていた大里社長の体(特に道具で固定された腕や上半身)が電車の車体側面、あるいはフロントガラスの端に激突しました。これが、運転士が「いきなり人が目の前に……」 と証言した理由です。

このトリックにより、通常の人身事故で起こるはずの「(危険を察知した)ブレーキ音や警笛」よりも先に、「(予期せぬ)衝突音」 が発生するという、時系列の異常な状況が生まれました。運転士は、衝突するに人影を認識したのではなく、衝突した瞬間に初めて「何か」に気づいたのです。

なぜ血痕が「不自然に高い位置」についたのか

栗原が二度目の人身事故(スガワラが誘導した事故)に遭遇した際、運転席から見たフロントガラスの血痕は、不自然なほど高い位置に付着していました

この大きな謎も、前述のY字の道具によるトリックで完璧に説明がつきます。被害者である大里社長は、線路上に倒れていたのではありません。また、線路上に立っていたわけでもありません。彼は、待避スペースで道具によって「立たされた」状態 で固定されていました。

そのため、電車との衝突ポイントが、通常考えられるよりも(立っていても、しゃがんでいても、倒れていてもあり得ない)高くなり、結果としてフロントガラスのあのような高い位置に血痕が付着したのです。栗原が偶然目撃したこの物証が、後にあかりの推理を決定づける重要な鍵となりました。

非常口の鍵(サムターンキー)の利用法

この巧妙なトリックを技術的に可能にしたもう一つの要素が、母娘山トンネルの非常口の特殊な鍵の構造です。

ここの非常口は、緊急時にトンネルの内外どちらからでも開閉できるよう、鍵穴の上に金属の棒(サムターンキー)が設置されていました 。これを倒すだけで、鍵がなくても扉を開け閉めできる仕組みになっていたのです

犯人(スガワラ)はこの構造を鉄道員として熟知していました。

  1. 侵入: 彼はまず、国道側(外側)からこのサムターンキーを操作し、第三非常口の扉を開けてトンネル内の待避スペースに侵入します 。
  2. 運搬と設置: 泥酔させた大里社長を運び込み、Y字の道具で前述の通りに固定します。
  3. 脱出と待機: すべての準備を終えた後、再び非常口の扉から待避用の通路(国道側)へ脱出します。
  4. 隠蔽: そして、内側から扉を閉め、サムターンキーを操作して施錠(あるいは単に扉を閉めた状態にし) 、始発電車が犠牲者を轢いて走り去るまで、すぐそばの暗闇で息を潜めていたのです。

この特殊な鍵の構造こそが、犯人が長距離のトンネル内を歩くことなく、車で直接犯行現場にアクセスし、犯行後すぐに立ち去ることを可能にした、計画の要でした。

巧妙に仕掛けられた伏線の回収

『変な地図』は、これらのトリックや真相に至るヒントが、物語の随所に巧妙に隠されています。読み返してみると「あの時のあれは!」と膝を打つ、主要な伏線を時系列順に解説します。

栗原の父が浴室を避けた行動

栗原が飯田橋の祖母の家を訪れた最初の場面。父はトイレに行く際、玄関から廊下をまっすぐ進む最短ルート(浴室・脱衣所前を通る)を避け、わざわざ居間を経由する遠回りなルートを選びました

栗原は当初、父が「浴室に入るのを怖れている」 と鋭く推理します。これこそが、栗原を祖母・知嘉子の死の真相に導く、物語後半の重要な発端でした。

父は、そこで知嘉子の首吊り自殺体を発見した第一発見者であり 、その光景が強烈なトラウマとなっていたのです 。この父の何気ない行動が、栗原に「この家で何かがあった」と感づかせる最初のきっかけとなりました。

第二非常口の「壊れた鍵」

大里社長がトンネル内で目覚めた際(2.3km地点) 、最初に脱出を試みた最寄りの第二非常口(2km地点)は、なぜか鍵(サムターンキー)が「途中までしか倒れない」 状態で、開けることができませんでした。大里は「なぜ今壊れた!」 と絶望します。

しかし、これは偶然の故障ではありませんでした。犯人(スガワラ)が事前に細工していたのです。

犯人の計画では、大里社長を第三非常口(3km地点)の仕掛け場所まで確実におびき寄せる必要がありました。もし第二非常口から脱出されてしまっては、計画は台無しです。そのため、犯人は大里が目覚めた地点から最も近い第二非常口を意図的に開かなくし、彼が1km先の第三非常口へ向かって走らざるを得ない状況へと、物理的に追い込んだのです

スガワラ駅員の不自然な鍵の確認

栗原が遭遇した二度目の人身事故(大里社長の事件とは別)の後、乗客たちは奇しくも大里が殺害されたのと同じ第三非常口から避難しました

その際、避難誘導をしていた駅員のスガワラは、非常口の外側(国道側)の扉にあるサムターンキーを一瞥し、「あれ? 鍵が開いてるな。誰か閉め忘れたか…? と、不自然な独り言を呟きます。

これこそ、彼が「犯人」であることの決定的な伏線でした。 彼以外の人間が、この国道側にある非常口のサムターンキーの施錠状態を気にする理由などありません。彼は、自分が大里社長を殺害した際に「外側から」この鍵を操作して侵入・脱出したため 、その状態が気になって(=証拠が残っていないか)つい確認し、口に出してしまったのです。

あかりも、後に栗原からこの証言(スガワラが外部の鍵に言及したこと)を聞いたことで、彼が犯人であると確信しました

その他の細かな伏線

  • 大里が見た血痕: 大里社長が第三非常口へ走る途中、枕木に「赤黒い液体」(血痕)を発見します 。彼はとっさに(昨夜の)自分の血か何かと考えますが、これは犯人が大里社長を運ぶ際、あるいはY字の道具を設置する際に付着した、生々しい犯行の痕跡でした。
  • 矢比津会長の脅迫: 会長が帆石水亭の主人(永作)に対し、「紙は破いておく」 、「あんたも家族が大事だろ?」 と脅迫します。前者は借金の借用書を破る(=口止め料)という意味であり、後者は自分の息子(スガワラ)を守るためなら手段を選ばないという、彼の冷酷な本性を示す伏線でした。
ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
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