【引き寄せの法則はオカルト?マンガでわかる量子力学】を読んだ感想と解説

「引き寄せの法則」と「量子力学」
一見すると、スピリチュアルと科学という全く異なる分野の話に思えます。しかし、引き寄せの法則を解説する際に、量子力学が根拠として語られることがあり、その違いや関係性が気になっている方もいるのではないでしょうか。中には、話が胡散臭いと感じたり、本当に科学的な裏付けがあるのか疑問に思ったりする方もいるかもしれません。
そんな疑問に答えてくれるのが、新進気鋭のAI漫画クリエイターとして注目度抜群の不可思議ちゃんによる一冊『マンガでわかる量子力学』です 。
「AI漫画クリエイター」と銘打つように、この漫画はAIで作成されています。しかし、そのクオリティは圧巻の一言。キャラクターの表情がコマごとに豊かに変化し、セリフに頼らずとも喜びや怒り、戸惑いといった感情の機微が見事に表現されています。
特に、対立する二人の先輩の間で揺れ動く主人公の繊細な作画描写は、AIが描いたとは到底思えないほど自然で、物語に深い没入感を与えています。技術的な目新しさだけでなく、漫画作品としての完成度の高さこそが、この作品が注目を集める最大の理由と言えるでしょう。
この記事では、初心者にもわかりやすく、このマンガの感想を交えながら、引き寄せの法則はオカルトなのか、それとも科学なのか、両者の関係性を徹底的に解説していきます。
- マンガが語る引き寄せの法則の概要
- 量子力学が引き寄せの根拠とされる理由
- 科学的視点からの反論とデコヒーレンスの概念
- 引き寄せの法則の心理学的な解釈
引き寄せはオカルト?マンガの感想と要約

- どんな話?あらすじを軽く紹介
- 心の波動が現実を創る引き寄せの法則とは
- 意識が結果を変える?二重スリット実験
- 観測で現実が確定するシュレーディンガーの猫
- 量子力学を日常に適用できない理由
- 重ね合わせを壊すデコヒーレンスという壁
- 「全体」と「部分」でルールが違う創発
どんな話?あらすじを軽く紹介

『引き寄せの法則はオカルトなのか?マンガでわかる量子力学』は、ごく普通の社会人1年目の主人公・安納マリが、仕事や人間関係を通して「引き寄せの法則」と「量子力学」の謎に迫っていく物語です 。
物語は、マリが憧れの先輩記者・田淵ミコのもとで働くことになるところから始まります 。ある日、マリは田淵先輩から特集のテーマとして「引き寄せの法則」について教わります 。田淵先輩は、自分の意識や心の状態(波動)が良い出来事を引き寄せると熱弁し 、その科学的根拠は「量子力学」にあると説明します 。
しかし、その話に「なんの関係もないわ」と異を唱える謎めいたもう一人の先輩、不可思議先輩が登場します 。鈴木先輩は、引き寄せの法則と量子力学を安易に結びつけることは「無知か詐欺」であると断言し 、科学的な視点から田淵先輩の主張に次々と反論していきます 。
憧れの先輩が語る「信じる力」と、ミステリアスな先輩が示す「科学的根拠」。対立する二人の意見の間で、主人公マリは何を信じ、どのような真実にたどり着くのでしょうか。本作は、マンガ形式で量子力学の不思議な世界をわかりやすく解説しながら、「意識と現実の関係」という普遍的なテーマに迫る知的エンターテインメント作品です。
心の波動が現実を創る引き寄せの法則とは

物語の序盤、主人公の安納マリは、彼女が心から尊敬する先輩記者、田淵ミコから「引き寄せの法則」の基本的な考え方を学びます 。
この法則は、単なる願望達成のテクニックではなく、世界の仕組みそのものに関わる根源的なルールとして描かれています。田淵先輩が熱心に語るその核心は、「同じ性質のものは互いに引き寄せ合う」という、シンプルでありながらも奥深い原理にあります 。
自分の「波動」が現実を引き寄せる
この法則を理解する上で、田淵先輩はまず「自分自身が強力な磁石になったと想像してみて」とマリに語りかけます 。心が楽しさや感謝、ワクワクといったポジティブな感情で満たされている時、その人はまるで磁石のように、良い人々、幸運な出来事、そして新たなチャンスを自然と引き寄せ始めます 。逆に、心にイライラや不安、落ち込みといったネガティブな感情を抱えていると、望まないトラブルや不運な出来事ばかりが現実に起こる、とされています 。
つまり、自分の内的な心の状態、すなわち目には見えない「波動」が、外的世界の出来事と共鳴し、同じ性質の現実を引き寄せるという考え方がこの法則の土台です 。この不思議な関係性を、田淵先輩はラジオのチューニングという非常に分かりやすい比喩で説明します 。
特定のラジオ番組を聴きたいとき、私たちはチューナーをその番組が放送されている周波数に正確に合わせます 。
それと同じように、「恋人がいて幸せな私」や「仕事で大きな成功を収めている私」といった理想の未来があるのであれば、現在の自分の心の状態(波動)を、その理想がすでに実現したかのような周波数に合わせるのです 。そうすることで、宇宙がその周波数に応答し、望んだ通りの現実を届けてくれる、というのが田淵先輩の解説でした 。
引き寄せを実践する3つのステップ
マンガの中では、この法則を日常生活で実践するための具体的な方法として、誰でも取り組める3つのシンプルなステップが紹介されています 。
- オーダーする:最初のステップは、宇宙に対して自分の願いを明確に宣言することです 。ポイントは、「〇〇の企画で特集記事を成功させる!」というように、できるだけ具体的に願い事をイメージすることです 。
- 波動を合わせる:次に、その願いがもうすでに叶ったかのように振る舞い、常に良い気分でいることが求められます 。「嬉しいな」「ありがたいな」といった感謝の気持ちで心を満たしていると、波動がどんどん理想の周波数と同調していくとされています 。
- 受け取る:最後は、結果に執着せずリラックスして、宇宙からのサインを待つだけです 。ふとした偶然や予期せぬチャンスが舞い込んできたら、それを見逃さずに「ありがとう!」と感謝して受け取ることが大切になります 。
このように言うと、多くの人が自己啓発やポジティブシンキングの一種だと感じるかもしれません。しかし、田淵先輩はこれが単なる精神論ではないと断言し、最先端の科学である「量子力学」によって、その正しさが証明されつつあると主張するのです 。
意識が結果を変える?二重スリット実験

引き寄せの法則が、単なるオカルトや精神論ではなく、科学的な根拠を持つと主張される最大の理由が、量子力学の分野で最も有名かつ不思議な「二重スリット実験」です 。この実験が明らかにした、私たちの常識とはかけ離れたミクロな世界の振る舞いが、「人間の意識が現実を創造する」という引き寄せの法則の根幹となる考え方と深く結びつけられています。
この実験では、電子のような目に見えないほど小さな粒子を、一つずつ装置から発射し、その先の壁にどのように到達するかを観察します 。実験はいくつかの段階を経て行われ、その過程で、物質の根源的な性質に関する驚くべき事実が明らかになります。
粒であり波でもある電子の二重性
まず、一枚の板にスリット(細い隙間)を1つだけ開け、そこに向かって電子を発射します 。すると、電子はまるで小さなボールのようにまっすぐにスリットを通り抜け、壁の一カ所に集中して到達します 。これは私たちの直感とも一致する、ごく自然な結果です。
ところが、この板のスリットを2つに増やすと、誰もが予想しなかった不思議な現象が起こります 。もし電子がボールのような「粒」であれば、壁にはスリットの形に対応した2本の線が映し出されるはずです。しかし、実際に現れたのは、何本もの濃淡のある縞模様(干渉縞)でした 。このような干渉縞は、水面の波のように、二つの波が互いに強め合ったり打ち消し合ったりすることでしか生まれません。
この結果は、たった一つの電子が、ボールのような「粒」ではなく、水面のように広がる「波」として振る舞い、なんと2つのスリットを同時に通過したことを強く示唆しているのです 。
「観測」という行為が結果を変える
この実験の最も奇妙で、引き寄せの法則と結びつけられる核心部分がここからです。科学者たちは、「幽霊のように2つのスリットを同時に抜ける」という電子の不思議な振る舞いを直接この目で確かめようと、どちらのスリットを電子が通るのかを特定するための観測装置を設置しました 。
すると、信じられないことが起こりました。科学者たちに「見られている」と気づいたかのように、それまで波のように広がっていた電子が、観測されたその瞬間に再びボールのような「粒」としての性質を取り戻してしまったのです 。
結果として、壁に現れていたはずの干渉縞はきれいに消え去り、そこにはまるで最初からそうであったかのように、2本のスリットに対応した線だけが記録されました 。
この驚くべき結果から、「観測する」という人間の行為そのものが、ミクロな世界の現象に直接影響を与え、その在り方を変えてしまった、と解釈されています 。田淵先輩が力説するように、この実験結果こそが「人間の意識が世界に影響を及ぼし、現実を確定させる」ことの科学的な証明であるとされ、引き寄せの法則の強力な根拠として語られているのです 。
観測で現実が確定するシュレーディンガーの猫

二重スリット実験と並び、引き寄せの法則と量子力学の世界観を結びつけるためによく引用されるのが、「シュレーディンガーの猫」という、物理学史上最も有名で奇妙な思考実験です 。これは、量子力学の創始者の一人であるエルヴィン・シュレーディンガーが、量子の世界の不可解なルールを、私たちの日常的なスケールに無理やり当てはめてみると、いかに常識外れで馬鹿げた結論に至るか、ということを皮肉っぽく示すために考案したものです 。
この思考実験では、まず一匹の猫を、外からは一切中身を窺い知ることができない、密閉された箱の中に入れます 。箱の中には、猫の他に、放射性原子核と、それが崩壊(放射線を発射)するのを検知すると毒ガスを発生させる、という特殊な装置が仕掛けられています 。原子核がいつ崩壊するかは完全に確率的な現象であり、例えば1時間後には50%の確率で崩壊し、50%の確率で崩壊しない、という状態にあるとします 。
量子の世界では、このような確率的な状態は、誰かが「観測」するまで確定しません。そのため、箱を開けて中を確認するまでの間、原子核は「崩壊した状態」と「崩壊していない状態」が同時に存在する「重ね合わせ」の状態にあると考えられます 。
そして、このミクロな世界の不確定性が、箱の中の猫というマクロな存在の運命にまで及んでしまうのです。つまり、箱の中の猫は「毒ガスによって死んでいる猫」と「無事に生きている猫」という二つの状態が、50%ずつの可能性で同時に存在している、という常識ではありえない状態になっている、と考えるのです 。
そして、私たちが意を決して箱の蓋を開け、中を覗き込んで「観測」したその瞬間に、この奇妙な重ね合わせの状態は終わりを迎えます 。猫の運命は、その時点で初めて「生きている」か「死んでいる」かのどちらか一方の現実に収束し、確定するのです 。
この話から、引き寄せの法則の支持者たちは、私たちの世界全体もまた、誰かに観測されるまでは、あらゆる可能性が重なり合った不確定な「重ね合わせ」の状態にある、と主張します 。そして、自分の願望を強く、明確にイメージして「観測」することで、無数に存在する可能性の中から、たった一つの望む未来を選び取り、この世界に現実として確定させることができるのだ、と考えているのです 。
量子力学を日常に適用できない理由
田淵先輩が情熱的に語る、引き寄せの法則と量子力学の神秘的な関係性は、一見すると非常に魅力的で、説得力があるように聞こえます。しかし、物語のもう一人のキーパーソンである鈴木不可思議は、その考え方には科学的に見過ごすことのできない、いくつかの大きな矛盾点や論理の飛躍があると鋭く指摘します 。
彼女が最初に挙げるのが、そもそもミクロな世界の法則を、私たちの住むマクロな世界にそのまま当てはめること自体の根本的な誤りです。
天文学的なスケールの違い
不可思議先輩が議論の前提としてまず指摘するのは、二つの世界を隔てる、想像を絶するほどの圧倒的な「スケール」の違いです 。二重スリット実験で主役となる電子と、シュレーディンガーの猫の思考実験で登場する猫とでは、その大きさや質量にとてつもない隔たりがあります 。
この数字がどれほど巨大かというと、私たちが夜空に見上げる全宇宙に存在する星の総数の、さらに百万倍に相当する、まさに天文学的なスケールなのです 。
物理学の世界では、これだけスケールが異なると、そこに適用される物理法則も全く異なるものになります 。量子力学は、あくまで原子や電子といった、私たちの目には見えない極めて小さなミクロの世界の振る舞いを記述するために構築された理論体系です 。
それを、猫や人間のような、複雑で巨大なマクロの世界にそのまま適用しようとすることは、フシギ先輩がマンガの中で例えているように、高性能なモーターを積んだミニ四駆で、F1グランプリに出場しようとするくらい、土台のルールが違うナンセンスな試みなのです 。
| 論点 | 引き寄せの法則側の主張(田淵先輩) | 科学的な反論(不可思議先輩) |
| 二重スリット実験 | 人間の「意識」が観測することで、波の状態だった電子が粒に変化し、現実が創られる | 観測装置による物理的な干渉が結果を変えるだけで、人間の意識は無関係 |
| シュレーディンガーの猫 | 人間が箱を開けて観測した瞬間に、生と死が重なった状態からどちらか一方の現実に確定する | 猫のようなマクロな物体は、人間が見る前にデコヒーレンスによって状態が確定している |
| 量子力学の適用範囲 | 私たちの体も粒子でできているため、量子の法則が適用される | ミクロとマクロではスケールが違いすぎ、「創発」により全く別の物理法則に従う |
したがって、ミクロな世界で観測された不思議な現象を直接的な根拠として、私たちの日常世界で「意識が現実を変える」と結論づけることには、あまりにも大きな論理の飛躍があると言わざるを得ません。
重ね合わせを壊すデコヒーレンスという壁
不可思議先輩が、引き寄せの法則と量子力学の短絡的な結びつきを否定するために挙げる、もう一つの決定的で重要な科学的概念が、「デコヒーレンス」という現象です 。
これは、シュレーディンガーの猫が「生きている状態」と「死んでいる状態」が重なり合った奇妙な状態で存在し続けることは、現実世界では不可能であるということを、より具体的に説明するものです。この概念は、シュレーディンガーが思考実験を考案した当時にはまだ知られていませんでした 。
重ね合わせはシャボン玉のように繊細

量子的な重ね合わせの状態は、不可思議先輩の言葉を借りれば、虹色に輝きながらも極めて繊細で壊れやすい、空中に浮かぶ一つの「シャボン玉」のようなものだと考えられます 。引き寄せの法則の支持者たちの多くは、私たち人間という特別な観測者が「観測する(つまり、指でシャボン玉を突く)」からこそシャボン玉が割れ、現実が一つに確定するのだ、と考えています 。
しかし、シャボン玉を思い浮かべてみればわかるように、実際には誰かが指で突かなくても、ほんのわずかな空気の流れ(風)が吹いたり、目に見えない小さなホコリが表面に付着したりするだけで、シャボン玉は「パチン」と音を立てていとも簡単に割れてしまいます 。
観測者がいなくても現実は確定する
シュレーディンガーの猫も、この繊細なシャボン玉と全く同じ運命を辿ります。猫が入れられた箱の中は、完璧な真空状態ではありません。そこには無数の空気の分子が存在し、絶えず猫の身体に衝突しています 。
また、猫自身の体温から発せられる熱の放射や、箱の隙間から差し込むごくわずかな光でさえも、猫の状態に影響を与えます 。
これらの一つ一つの極めて小さな接触や相互作用が、シャボン玉を割ってしまう「風」や「ホコリ」のように作用し、猫の状態(生きているか死んでいるか)という情報を、私たちの意識とは全く無関係に、勝手に外部の環境へと漏らしまくっているのです 。このように、観測対象である量子系が、周囲の環境との無数の小さな接触によって、その量子的な性質(重ね合わせ)を失ってしまう現象こそが「デコヒーレンス」なのです 。
以上の点を踏まえると、猫ほどの大きさを持つマクロな物体が、量子的な重ね合わせの状態でいられるのは、現実の世界では一瞬たりとも不可能である、と言えます 。
つまり、私たち人間という特別な「観測者」が登場して箱を開けるずっと前から、猫の状態はデコヒーレンスによってとっくの昔に確定してしまっている、というのが現代物理学が導き出した、より現実に即した考え方なのです 。
「全体」と「部分」でルールが違う創発
「それでも、私たちの身体も元をたどればミクロな粒子の集まりなのだから、量子の法則がどこかで適用されていてもおかしくないのではないか」という根源的な疑問が残るかもしれません 。この、部分と全体の関係性に関する問いについて、フシギ先輩は「創発」という、現代科学において非常に重要な概念を用いて、その誤解を解き明かします 。
創発とは、非常にたくさんの要素(部分)が集まって、より高次のシステム(全体)を構成したときに、個々の要素が単独で持っていなかった、全く新しい性質やルールが、あたかも無から生まれるかのように現れる現象のことです 。
レゴブロックのお城の例

この創発という概念を直感的に理解するために、マンガではレゴブロックでできたお城が非常に巧みな例として挙げられています 。お城は、言うまでもなく一つ一つのレゴブロックという「部分」が集まってできています 。
しかし、「お城」という「全体」になったとき、それはもはや単なるブロックの集合体とは全く異なる、高次の性質を獲得しています 。「部屋がある」「頑丈な壁がある」「美しいシルエットを持つ」といった性質は、ブロック一個の状態では決して存在しなかった、まさしく「創発」した性質なのです 。
この例が示すように、「全体は、単なる部分の寄せ集めではない」のであり、部分に適用されるルールが、そのまま全体に適用されるわけではないのです 。
デコヒーレンスが創発を後押しする

そして物理の世界では、この創発のプロセスを、前述の「デコヒーレンス」が強力に後押ししている、と不可思議先輩は説明します 。私たちの身体は、天文学的な数(一兆の一兆倍のさらに百万倍以上)の粒子が集まってできています 。
その無数の粒子たちが、体内という極めて相互作用の多い環境で、常に互いにぶつかり合い、影響を与え合っています 。
この絶え間ない相互作用の過程で、デコヒーレンスによって、一個一個の粒子が持っていたはずの繊細な量子的な性質(重ね合わせというシャボン玉の状態)は、一瞬のうちに平均化されてしまい、その個性を完全に失ってしまいます 。
その結果として、私たちの身体という「全体」は、個々の粒子が従うミクロな量子の法則ではなく、私たちに馴染みのある、ニュートン力学に代表される「古典物理学」の安定した法則に従う、一つのマクロな物体として「創発」するのです 。したがって、「私たちが粒子でできている」という事実と、「私たち自身が量子の法則に従う」ということは、全く別の話であると結論づけられます 。
引き寄せと量子力学をマンガで考察した感想

- 科学とオカルトの境界線を考える
- 心理学で解明される引き寄せの正体
- 未来を信じる「努力」が現実を変える
- 総括|引き寄せはオカルト?マンガの感想
科学とオカルトの境界線を考える

この物語は、単に「引き寄せの法則は正しいか、間違っているか」という二元論で終わるのではなく、読者に対して「科学とは何か」「私たちが認識しているこの世界は本当に確かなものなのか」という、より深く、より本質的な問いを投げかけます。
不可思議先輩のキャラクターを通して、作者は現時点で科学的に証明されている「事実」と、そうでない「仮説」や個人の「思い込み」を、ジャーナリストとしていかに冷静に区別し、提示するべきかという重要な姿勢を示しています 。
科学の歴史を丹念に振り返れば、かつて絶対的な常識であり、疑うことすら馬鹿げているとされていた「天動説」が、「地動説」という新たな発見によって根底から覆されたように、私たちの現在の常識が未来永劫にわたって真実であり続ける保証はどこにもありません 。目で見たままの「事実」でさえ、真実の姿とは限らないのです 。
現実世界はシミュレーションなのか?

この「常識の不確かさ」を象徴するものとして、不可思議先輩は現代の物理学者や哲学者が真剣に議論している、いくつかの刺激的な仮説を紹介します。その一つが「シミュレーション仮説」です 。これは、私たちが生きているこの宇宙全体が、私たちより遥かに進んだ知的生命体によって作られた、超高度なコンピューターシミュレーション(仮想現実)である可能性を考えるものです 。
この仮説が支持される背景には、いくつかの興味深い根拠があります。例えば、この世界の物理法則がすべて数学的な方程式で記述できることは、世界がプログラムに基づいている証拠かもしれません 。また、観測されるまで状態が確定しないという量子の奇妙な振る舞いは、ゲームの世界で処理能力を節約するために「プレイヤーが見ている範囲だけを描画する」という仕組みに驚くほどよく似ている、と指摘されています 。
意識こそが本当の現実という考え方
さらに過激で、より引き寄せの法則の思想に近い考え方として、「意識の世界こそが根源的な現実」であり、私たちが五感で体験しているこの物理世界は、いわば意識が見ている「共有の夢」や「VR映像」のようなものに過ぎない、というアイデアも提示されます 。
この立場に立てば、私たちが必死に解き明かそうとしている物理法則は、この夢の世界を成り立たせるためのローカルな「ルール」に過ぎず、「意識」こそがその夢の展開を決める、より上位の法則なのかもしれない、という可能性が生まれます 。
もちろん、これらは現時点では証明も反証もできない、SFの領域を出ない仮説です。しかし、これらの考え方は、安易に科学とオカルトを混同して語るのではなく、事実と仮説を明確に区別した上で、未知の世界の謎に挑み続けることの知的な面白さと、謙虚な姿勢の重要性を示唆しています。
心理学で解明される引き寄せの正体
では、引き寄せの法則を量子力学で説明することが論理の飛躍であるとするならば、なぜそれを実践することで、実際に願いが叶ったかのように感じる人々が数多く存在するのでしょうか。
この非常に重要な問いに対して、フシギ先輩はオカルト的な説明に頼るのではなく、「心理学」という科学的な観点から、その現象を引き起こしている可能性のある、いくつかの具体的な脳のメカニズムを提示します。
プラシーボ効果と思い込みの力
フシギ先輩が挙げる一つ目のメカニズムは「プラシーボ効果」です 。これは、薬としての有効成分を一切含まない偽薬(プラシーボ)であっても、被験者が「これはよく効く薬だ」と強く信じて服用することで、実際に痛みが和らいだり、症状が改善したりする不思議な現象を指します 。これは単なる「気のせい」ではなく、脳が期待や思い込みに刺激され、実際に痛みを抑える脳内物質を分泌させるなど、心が体に物理的な変化を引き起こすことが科学的に確認されています 。
引き寄せの法則も同様に、「私の願いは必ず叶う」と強く信じること自体が、行動や心理状態に良い影響を与える、強力な自己暗示、つまりプラシーボとして機能している可能性が考えられます 。
脳が勝手にチャンスを見つける働き
次に挙げられるのが、「カクテルパーティー効果」です 。これは、大勢の人が雑談しているパーティー会場のような騒がしい場所でも、不思議と自分の名前や、自分が興味を持っている話題は自然と耳に入ってくる、という人間の脳が持つ選択的な情報処理能力のことです 。
これを引き寄せの法則に当てはめてみると、非常に興味深い示唆が得られます。例えば、「ラーメン特集の記事を担当する」という願いを常に意識しているマリは、脳が無意識のうちに「ラーメン」に関連する情報を優先的にフィルタリングするようになります 。
その結果、普段なら見過ごしてしまうような雑誌の小さな記事や、同僚の何気ない会話の中から、特集のヒントとなる情報やチャンスを「引き寄せた」かのように発見しやすくなるのです。
さらに、人間には自分に都合のいい情報ばかりを集めて、既存の信念を補強してしまう「確証バイアス」という心理的な癖もあります 。これらの心理作用が複合的に働くことで、超自然的な力が働いたわけではなくても、あたかも「引き寄せ」が次々と起きているかのように実感してしまう、というのが不可思議先輩が提示した、科学的で合理的な解説なのです。
未来を信じる「努力」が現実を変える
物語のクライマックス、引き寄せの法則の伝道師であるキヨシ先生との対談で、議論は核心に迫ります。成功を手にしたキヨシ先生は、過去の自身の研究生活を振り返り、「いくら努力しても成果が出なければ虫けら扱いだ」「努力なんて無意味」と、努力という行為そのものを冷ややかに否定します 。
しかし、その言葉に強く心を揺さぶられたのが、他ならぬ田淵先輩でした。彼女は、いじめによって人生に絶望していた自分をキヨシ先生の本が救ってくれたことは紛れもない事実であると感謝しつつも、涙ながらに自らの過去を吐露します 。
本によって希望をもらった後、彼女がしたことは、ただ宇宙に願うことだけではありませんでした。「絶対にいつか見返してやる」という強い意志を胸に、泣きながら英単語を覚え、参考書がボロボロになるまで必死に問題を解き、誰にも見えない場所で想像を絶する「努力」を続けたからこそ、今の自分があるのだと叫ぶのです 。
この田淵先輩の魂の告白こそが、この物語が示す最終的な結論です。フシギ先輩もまた、「努力」だけでは足りないとしつつ、「『未来を信じて』努力することが重要なんです」と補足します 。
結局のところ、このマンガが描き出す「引き寄せの法則の本当の姿」とは、量子力学に基づいた超自然的な力などではありません。それは、「自分の望む輝かしい未来の実現を心から信じる」というポジティブな心理状態と、その未来を手繰り寄せるための「地道で具体的な努力を続ける」という現実的な行動、この二つが両輪となって初めて機能する、非常に人間的な成功法則なのです。
未来を信じる心が、困難な努力を継続させるための強力なモチベーションとなり、その継続的な努力が、結果として理想の未来を現実のものとする。これこそが、多くの人々が経験してきた「引き寄せ」の、最も地に足の着いた、そして誰もが実践可能な説明なのかもしれません 。
まとめ|引き寄せはオカルト?マンガの感想
- マンガ『引き寄せの法則はオカルトなのか?』の感想と考察をまとめた
- 引き寄せの法則は「同じ波動のものが引き合う」という考え方が基本
- 実践方法として「オーダー」「波動合わせ」「受け取り」の3ステップがある
- 科学的根拠として量子力学の「二重スリット実験」が挙げられる
- 「意識による観測が現実を創る」というのが引き寄せ側の解釈
- 「シュレーディンガーの猫」も観測による現実確定の例として用いられる
- しかし量子の世界と私たちの世界には天文学的なスケールの差が存在する
- ミクロの法則をマクロの世界にそのまま適用するのは論理的な飛躍である
- 「デコヒーレンス」により人間が観測する以前に現実は確定している
- 量子的な重ね合わせはシャボン玉のように繊細で環境との接触ですぐ壊れる
- 部分のルールが全体に通用しない「創発」という概念も重要
- 私たちの体は粒子の集まりだが全体としては古典物理学の法則に従う
- 引き寄せの法則の正体は心理学的な効果で合理的に説明できる可能性がある
- 「プラシーボ効果」や「カクテルパーティー効果」などが複合的に作用する
- 物語の最終的な結論は「未来を信じる心」と「地道な努力」の重要性


