【狗月神社】3話をあらすじから結末まで全てネタバレ解説

ずっちー
前話のおさらい
  • 主人公かずねが13年間抱え続けた、少年「よっちゃん」を死なせてしまったかもしれないという罪悪感は、彼女自身の記憶違いであったことが判明します。よっちゃんは無事に生きており、彼女の心は一時的に解放されました。
  • しかし、その安堵も束の間、本当にかくれんぼの事故で命を落としていたのは、彼女が愛する恋人の哲史であったという、あまりにも残酷で受け入れがたい真実が明らかになります。
  • これまでかずねが共に過ごし、愛を育んできた哲史の正体は、彼女が狗月神社で「てっちゃんを返してください」と泣きながら祈ったことにより、現世に呼び戻されてしまった霊でした。
  • 封印されていた全ての真実を思い出したことで、哲史の霊はかずねの前から静かに姿を消し、彼女は一人、取り返しのつかない罪と、二度目の喪失という現実に打ちひしがれることになったのです。

【狗月神社】第3話をネタバレありでわかりやすく解説する

前話で描かれた、かずねの絶望的で悲劇的な物語が一旦の結末を迎えた後、物語の舞台は静かに移り、新たな登場人物たちへとバトンが渡されます。今回の物語の中心となるのは、紗良(さら)と陸(りく)という一組の夫婦です。彼らは、12年前に不慮の事故でこの世を去った、かけがえのない親友・リョウの葬儀に参列するため、久しぶりに故郷へと戻ってきていました。一見すると穏やかで幸せそうに見える二人の関係性の裏にもまた、「狗月神社」を巡る、深く、そして取り返しのつかない悲しい過去の記憶が、暗い影を落としていたのです。

忘れられない高校最後の夏

紗良と陸、そしてリョウ。かつてこの三人は、どこへ行くにも何をするにもいつも一緒で、互いにとって空気のような、それでいてかけがえのない存在でした。しかし、青春時代特有の甘酸っぱさが彼らの関係に微妙な変化をもたらします。高校3年生の夏、紗良と陸がごく自然な流れで付き合い始めたことをきっかけに、それまで完璧だった三人の均衡は少しずつ崩れ、リョウとは徐々に距離が生まれ、疎遠になってしまったのです。

彼らの色褪せない共通の思い出の中には、あの不気味な言い伝えを持つ「狗月神社」も存在していました。まだ幼い小学生の頃、三人が可愛がっていた飼い犬のポテチが死んでしまった時、「狗月神社でお願いすれば、死んだ犬が帰ってくる」という子供じみた言い伝えを本気で信じ込み、三人で肩を寄せ合って必死に祈りを捧げたことがあったのです。

リョウの葬儀の場で、彼の母親は遺影を見つめながら、寂しそうに当時のことを振り返ります。「高3の夏の終わり頃から 急にふさぎ込むようになってね」。その頃の誰もが、それは繊細な時期の少年が抱える進路への悩みだろうと、特に深くは考えていませんでした。しかし、今となっては、彼の沈黙の裏には、一番近くにいたはずの親友たちにすら打ち明けることのできなかった、別の苦悩が隠されていたのかもしれないと、紗良と陸の胸に重くのしかかります。

夫・陸が抱える罪悪感

葬儀後の会食の席は、故人を偲ぶ湿っぽい空気と、久しぶりに顔を合わせた親戚たちの賑やかさが混じり合った、不思議な空間でした。そんな中、ある親戚から投げかけられた「子供はまだなの?」というデリカシーのない言葉が、紗良と陸の間に一瞬、気まずい沈黙を流します。その言葉が引き金になったのか、陸は会食の席をそっと抜け出し、まるで何かに引き寄せられるかのように、一人であの思い出の狗月神社へと足を運んでいました。誰にも見せることのない、深く暗い後悔の念に心を沈ませるために。

彼の心の中には、12年という長い歳月を経てもなお、少しも薄れることのない罪悪感が渦巻いています。実は、亡くなったリョウが紗良のことを深く想い、告白する決意を固めていたことを、陸は当時から知っていたのです。親友でありながら、恋のライバルでもあったリョウに紗良を奪われたくない一心で、彼はリョウが行動を起こすよりも先に、紗良へと思いを告げたのでした。

「もし、あの時リョウが先に告白していたら、紗良はリョウと付き合っていたかもしれない…」そして、こう考えずにはいられません。「そうすれば、あいつもこんな風に、若くして死ぬことはなかったのかもしれない…」。彼の後悔は、単なる過去の恋愛における選択に対するものではありませんでした。自分の行動が親友の運命そのものを捻じ曲げ、死へと導いてしまったのではないかという、あまりにも重く、十字架のような罪悪感だったのです。

妻・紗良が秘めていた想い

一方で、妻である紗良もまた、決して最愛の夫には明かすことのできない複雑な想いを、心の奥底に静かに秘めていました。彼女自身、陸からの告白を受け入れたのは、純粋に「陸のことが好きだから」だと信じて疑っていませんでした。しかし、その心のさらに深い場所では、リョウへの淡く、しかし確かな想いも存在していたことを、彼女は自覚していたのです。

当時の紗良にとって、リョウは少しミステリアスで、何を考えているのか本心が掴みどころのない存在でした。彼が自分のことをどう思っているのか、自信が持てずにいたのです。そんな不安な気持ちで揺れ動いていた時、真っ直ぐに、疑う余地もなく好意を伝えてくれた陸の存在は、彼女にとって大きな安らぎであり、一種の救いでもありました。「陸と結婚して普通に幸せだし」と、彼女は何度も自分に言い聞かせます。しかし、ふとした瞬間に「後悔してる?」という自問自答が、波のように心をよぎることがありました。好き嫌いの多さ、聴いている音楽の趣味、そして利き手…。紗良は無意識のうちに、現在の夫である陸の姿に、もうこの世にはいない親友リョウの面影を重ねて、比較してしまっていたのでした。

忍び寄る異変と神社の呪い

リョウの死から12年の時が経ち、平穏だと思われていた夫婦の日常に、静かでありながらも決定的で、不気味な異変が忍び寄ります。ある日の夕食の席で、紗良は自分の目を疑うような信じられない光景を目の当たりにしました。長年連れ添い、右利きであることを知っているはずの夫・陸が、あまりにも自然に、左手で箸を巧みに使っていたのです。その瞬間、紗良の脳裏に、リョウが左利きだったという事実が、まるで雷に打たれたかのように鮮明に蘇りました。

その頃、陸自身もまた、自分の身体に得体の知れない奇妙な違和感を覚え始めていました。「誰かが 俺の体を 動かしてて それをボンヤリ 見 てるみたいな」。まるで自分の魂が体から離れて、誰かに操られている自分を遠くから眺めているかのような、恐ろしい感覚。そして彼の脳内には、子供の頃に聞いたあの神社の言い伝えが、不吉な予言のように木霊します。「狗月神社で お願いすると 死んだ犬が 帰ってくるって」。

夫の常軌を逸した変化に気づいた紗良は、それがリョウへの計り知れない罪悪感からくる精神的なもの、一時的な心の不調なのだと考えようとします。しかし、日に日に増していく違和感と拭いきれない不安に駆られた彼女は、藁にもすがる思いで、地元とは別の場所にある狗月神社を訪れます。そして、境内で出会った神社の老婆に、震える声で尋ねるのでした。「…あの 本当に あるんですか?」と。彼女の問いの意図を全て見透かしたかのように、老婆は意味深な表情を浮かべ、ただ静かにこう答えます。「死んだ犬が 帰ってくるっていう…」。物語は、新たな呪いの幕開けを強く予感させながら、静かに幕を閉じるのです。

【狗月神社】3話を読んだ感想(ネタバレあり)

前話の、かずねと哲史の物語がもたらした衝撃的な結末から一転、登場人物と舞台を完全に刷新して新たな物語が始まったことには、まず純粋に驚かされました。かずねの物語が、記憶のトリックを核とした絶望的なホラーテイストだったのに対し、今回の紗良と陸の物語は、亡き親友リョウを巡る、恋愛における後悔や罪悪感といった、より生々しく普遍的な人間の感情がテーマとなっており、全く異なる角度から一気に物語の世界へと引き込まれました。

特に私の心に深く響いたのは、陸と紗良、それぞれの視点から丁寧に描かれる過去への後悔の念です。親友を出し抜く形で想い人を手に入れてしまった陸の、12年間消えることのない罪悪感。そして、二人の魅力的な男性の間で揺れ動き、結果的に一つの「あったかもしれない未来」を永遠に失ってしまった紗良の、心の奥底に秘めた想い。どちらの感情も非常にリアルで、誰もが青春時代に経験するかもしれない選択の重さを描き出しており、読んでいて胸が締め付けられるようでした。

そして、そんな切ないヒューマンラブストーリーが、最後の最後でぞっとするようなホラーへと鮮やかに反転する展開には、思わず息を呑みました。陸が何気なく「左手」で箸を持つシーンは、ほんの些細な日常の描写でありながら、物語全体の空気を一変させるほどの凄まじい破壊力を持っています。この一件により、「狗月神社」の呪いが、特定の個人の物語に留まらず、その不気味な言い伝えが存在する場所全てに影響を及ぼす、より根源的で普遍的な恐怖であることが示唆されており、今後の展開から目が離せません。

【狗月神社】3話のネタバレまとめ

  • 物語は新たな登場人物、紗良と陸、そして12年前に亡くなった彼らの共通の親友・リョウの過去へと移る。
  • 夫の陸は、リョウが密かに想いを寄せていた紗良を、彼が告白する前に自分からアプローチして恋人にしたことに対し、長年罪悪感を抱えていた。
  • 一方、妻の紗良もまた、リョウへの想いを完全には断ち切れないまま、はっきりと好意を示してくれた陸と結婚したという、誰にも言えない過去を持っていた。
  • リョウの死から12年の歳月が流れた後、右利きであるはずの陸が、リョウと同じように左利きになるという、科学では説明のつかない異変が起きる。
  • 「狗月神社」の呪いが、今度は彼ら夫婦の運命を静かに、しかし確実に狂わせようとしており、紗良は言い伝えの真偽を確かめるために行動を起こす。

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ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
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