ホラー

映画【狂覗】ネタバレ解説!ラストの結末と感想

ずっちー

映画『狂覗』のネタバレが気になるけれど、解説しているサイトが見つからない、そんな経験はありませんか。

この作品は一部でカルト的な人気を誇る一方で、決して広く知られているわけではなく、詳しい情報を得にくいと感じている方もいるかもしれません。また、その衝撃的な内容から、鑑賞後に失敗したと後悔の念を抱く人もいるようです。人気がないからといって、作品の価値がないわけではありません。

この記事では、そんな映画『狂覗』のあらすじから衝撃のラスト、そして登場人物の背景まで、あなたの知りたい情報を徹底的に解説します。

この記事を読むと以下のことが理解できます
  • 映画『狂覗』のあらすじと物語の背景
  • 主要な登場人物とそれぞれの役割
  • 物語の核心に迫る衝撃的な結末
  • 作品が問いかけるテーマとタイトルの意味

映画『狂覗』のネタバレあらすじを徹底解説

  • 作品の基本情報と登場人物・キャスト
  • 物語のあらすじを起承転結で追う
  • 全ての発端となった秘密の荷物検査
  • 次々と暴かれていく教師たちの闇
  • このクラスで起きていたいじめの真相

作品の基本情報と登場人物・キャスト

映画『狂覗』は、2017年に公開された日本のインディーズ映画であり、ジャンルとしてはサスペンス、ミステリー、そしてホラーに分類されます。藤井秀剛が監督と脚本を務め、ある中学校の教室という非常に限定された空間(ワンシチュエーション)を巧みに利用して、人間の内に秘められた狂気や猜疑心、そして教育現場の腐敗した側面を鋭く、かつ容赦なく描き出しています。低予算で制作された背景があり、映像の質感には自主映画のような荒削りな部分が見受けられますが、そのざらついた映像が逆に作品全体の不穏な雰囲気を高め、観る者に生々しい恐怖感を与える効果的な演出となっています。

この息詰まるような物語を深く理解するためには、まず、この密室劇を繰り広げる主要な登場人物たちの背景と役割を正確に把握することが不可欠です。

教師たち

  • 谷野十(すぎやま じゅし)物語の実質的な主人公であり、観客の視点に近い存在として配置されている国語教諭です。彼は過去に経験したある痛ましい事件が原因で心に深い傷を負い、一度は教職から離れていました。しかし、恩師である森に請われる形で臨時教師として復職し、今回の荷物検査に参加することになります。彼の内面には常に罪悪感と倫理観の葛藤が渦巻いており、他の教師たちが暴走していく中で、かろうじて正気を保とうとしますが、凄惨な状況は彼の精神を徐々に蝕んでいきます。
  • 森由紀夫(たなか ひろき)生徒指導という立場にありながら、今回の常軌を逸した「秘密の荷物検査」を計画し、強引に推し進める科学教師です。彼は関西弁を話し、一見すると生徒思いの熱血教師のようにも見えますが、目的のためには手段を選ばない独善的で危険な側面を隠し持っています。谷野にとっては教師に復職させてくれた恩師という複雑な関係性があり、谷野は彼の強引なやり方に疑問を感じつつも、強く反抗できずにいます。
  • 橋本瑞穂(みやした じゅん)美術教師として荷物検査に招集されますが、当初からこの異常な行為に対して非協力的な態度を貫きます。他の教師たちがヒステリックに生徒の私物を漁る中、彼女は冷静に、そして冷ややかに状況を観察しています。その態度は、この狂気の状況における唯一の良心、あるいは傍観者としての冷徹さを象徴しているとも解釈できるでしょう。
  • 管直樹(かつら ひろし)数学教師。彼は他校の女子高生と不適切な関係を持っているという重大な秘密を抱えています。その事実を生徒である万田に知られ、弱みを握られているため、万田の荷物検査が行われることに極度の恐怖を感じています。彼の焦りと保身に走る行動が、教師たちの疑心暗鬼をさらに加速させる一因となります。
  • 片山絵里子(さかい たかこ)事件が起きるクラスの担任を務める英語教師です。彼女は自分のクラスでいじめや問題が起きているとは信じたくない、あるいは気づかないふりをしている節があり、クラスの現状を把握できていない典型的な「事なかれ主義」の教師として描かれます。
  • 上西譲(うら げん)物語の引き金となる人物です。彼は校長室で瀕死の状態で発見されますが、その裏では生徒の盗撮を繰り返し、ウェブサイトで公開するという卑劣な犯罪に手を染めていました。生徒たちによるリンチは、彼のその行為に対する報復であったことが示唆されます。

物語の鍵を握る生徒

  • 万田この物語の中心にいる、最も謎めいた女子生徒です。芸能事務所からスカウトされるほどの類稀なる美貌と、常にトップクラスの成績を維持する明晰な頭脳を併せ持っています。しかし、その完璧な外面とは裏腹に、「小学生の頃に猫に爆竹をつけて殺した」といった、真偽不明ながらも不穏な噂が絶えません。彼女の存在そのものが、教師たちの憶測と狂気を増幅させる触媒となり、物語は予測不可能な方向へと突き進んでいきます。

物語のあらすじを起承転結で追う

ここでは、息つく暇もなく展開される物語の全体像をより深く掴むために、そのあらすじを「起」「承」「転」「結」の四つの構成要素に分けて、より詳細に解説していきます。

起:事件の発生と荷物検査の計画

物語の幕は、静寂に包まれた豊玉第三中学校の校長室で、一つの異変が発見されるところから静かに上がります。校長が、瀕死の状態で倒れている同僚教師・上西を発見。すぐさま警察に通報しようとしたその瞬間、彼女の目に飛び込んできたのは、起動したままのパソコン画面でした。そこに映し出されていたのは、女子生徒のスカートの中などを執拗に狙った盗撮写真で埋め尽くされた、おぞましいウェブサイトでした。

この発見により、状況は一変します。もし警察の調査が入れば、上西の犯罪行為が明るみに出て、学校の名誉は地に落ちるでしょう。学校の体面と世間体を何よりも優先した校長は、警察への通報を取りやめ、この事件を内密に処理することを決断します。そして、生活指導担当の森を呼び出し、生徒によるリンチの可能性を視野に入れ、犯人を特定するよう密命を下すのです。そこで森が発案したのが、生徒たちが体育の授業で教室を空けている隙を狙い、彼らの立ち会いなしで私物を調べるという、プライバシーを完全に無視した前代未聞の「秘密の荷物検査」でした。

承:暴かれる生徒と教師の秘密

森は、かつての教え子であり、心に傷を負って教職を離れていた谷野を「人手が足りない」という名目で臨時教師として呼び戻します。そして、谷野、橋本、管、片山といった教師たちを集め、禁断の荷物検査を開始します。生徒たちの鞄を開けると、そこからは大量のお菓子やゲーム機といった校則違反の品々から、盗撮目的と思われる小型ビデオカメラ、さらには性的な玩具といった、彼らの抱える思春期の歪んだ欲望や秘密が次々と現れ、教師たちは生徒たちの想像を絶する裏の顔に愕然とします。

その調査の過程で、ひときわ異様な空気を放っていたのが、才色兼備の生徒・万田の机でした。彼女の荷物を調べようとした際、数学教師の管が「彼女は特別だ」などと意味不明な言葉を発し、異常なまでにその行為を妨害しようとします。問い詰められた管が白状したのは、彼自身が女子高生とラブホテルに入るところを万田に目撃され、その証拠写真を撮られて脅されていたという事実でした。このように、生徒の秘密を暴くはずだった荷物検査は、皮肉にも教師たち自身がひた隠しにしてきた醜い闇を、白日の下に晒していくのです。

転:いじめの真相と万田の机

調査が混乱を極める中、美術教師の橋本が教室の黒板に不自然な消し跡があることに気づきます。その跡をなぞると、そこにはカタカナで「シネ」という禍々しい文字が浮かび上がりました。さらに、ゴミ箱からは髪の毛がびっしりと絡みついたカッターナイフや、悪意のある落書きがされた教科書、赤いスプレーで汚されたような痕跡も発見されます。これらの動かぬ証拠は、このクラスに陰湿ないじめが存在することを示していました。教師たちは、万田の不穏な噂や管を脅迫している事実から、彼女こそがこのいじめの主犯格であると短絡的に結論づけます。

しかし、物語はここで衝撃的な転回を見せます。教室内の机の数が一つ足りないという事実に気づき、教師たちが周囲を探すと、万田の机だけがベランダの外へ無残に放り出されていたのです。この発見は、教師たちの浅はかな思い込みを根底から覆しました。いじめの加害者は万田ではなかったのです。彼女こそが、クラスの全員からターゲットにされ、心身ともに追い詰められていた哀れな被害者だったという、残酷な真実が突きつけられた瞬間でした。

結:狂気の連鎖と最悪の結末

体育の授業を終えた生徒たちが校庭に集まっているにもかかわらず、万田の姿だけが見当たりません。しかし、彼女の靴は下駄箱に残されたままです。彼女が校外へ出た形跡はなく、この校舎のどこかに、おそらくはこの教室の近くに隠れているはずでした。教師たちが焦燥感に駆られながら彼女を探す中、過去のトラウマから生徒の心理に敏感になっていた谷野が、教室の隅にある掃除用具ロッカーの中に万田が潜んでいる可能性に気づきます。

森がおそるおそるロッカーの扉にある小さな覗き穴を覗き込むと、暗闇の中からこちらをじっと見つめる万田の目と視線が合います。教師たちの醜い会話と不正行為の全てを、彼女は息を殺して聞いていたのです。そして、彼女は小さな声で、しかしはっきりと「言ってやる」と呟きました。自分たちの秘密がすべて暴露されるという恐怖に駆られた森は、完全に理性を失います。彼は近くにあったモップの柄を掴むと、その覗き穴から何度も、何度も、中にいる万田を狂ったように突き刺したのです。

その凶行と時を同じくして、非情な授業終了のチャイムが鳴り響き、何も知らない生徒たちが笑顔で教室へと戻ってきます。完全に動転した森は、よろめきながら後ずさり、足をもつらせてベランダから転落。中庭の机に体を強打し、即死します。映画は、惨殺された生徒の死体、転落死した教師の死体、そしてこれから始まるであろうさらなる地獄を知らない生徒たちの無邪気な姿を映し出し、一切の救いも解説もないまま、突然幕を閉じるのです。

全ての発端となった秘密の荷物検査

この物語の全ての悲劇の引き金となったのは、生徒がいない教室で密かに行われた「秘密の荷物検査」に他なりません。生活指導担当の森が主導したこの行為は、表向きにはリンチ事件の犯人を見つけ出し、生徒の現状を把握するという教育的指導を大義名分として掲げています。しかし、その実態は、生徒の人権やプライバシーを完全に無視した、法治国家において決して許されることのない重大な権利侵害行為です。

物語の序盤、教師たちはこの禁断の行為に対して、それぞれ異なる反応を見せます。谷野のように倫理的な呵責を感じて躊躇する者、橋本のように冷ややかに距離を置く者、そして森のように自らの正義を信じて疑わない者。この時点では、彼らの中にもまだ教師としての分別が残っていたように見えます。

しかし、一度パンドラの箱を開けてしまうと、事態は坂道を転がるように悪化の一途をたどります。生徒たちの鞄を無断で漁り、彼らが隠し持つ秘密や裏の顔を目の当たりにすることで、教師たちの心の中にあった「生徒は指導し、保護すべき存在」という認識は、「生徒は疑い、管理すべき危険な存在」へと変質していきます。そして何より皮肉なのは、生徒を「覗く」というこの行為が、結果的に自分たち自身の隠された弱みや醜い秘密を互いに「覗かれる」状況を生み出し、彼らの間にあった信頼関係を完全に破壊してしまったことです。この相互不信が、後の集団ヒステリーと最悪の悲劇へと繋がっていく重要な伏線となっています。

次々と暴かれていく教師たちの闇

生徒たちの鞄から発見される品々は、確かに未成年者の逸脱行為や危険な兆候を示唆するものでした。しかし、物語が進行するにつれて、それ以上に観客に強烈な不快感を与えるのは、生徒を裁く側にいるはずの教師という大人たちの、腐敗しきった実態です。

  • 盗撮という性的搾取を行う上西
  • 教え子ではないにせよ、未成年者と不適切な関係を持つ管
  • 真実を知りながら保身のために事件の隠蔽に加担した過去を持つ谷野
  • クラスの異常に気づきながらも見て見ぬふりを続ける担任の片山

リストアップするだけでも、彼らがいかに教育者としての倫理観を欠いているかが分かります。彼らは生徒を指導し、その未来を守るべき聖職者でありながら、その実態は自らの欲望や保身のためには平気で法や倫理を踏みにじる、利己的な個人に過ぎませんでした。「今の生徒たちは何を考えているか分からない」「生徒が狂っている」という前提で始まったはずの荷物検査は、むしろ「教師たちも同様に、あるいはそれ以上に救いようがなく狂っている」という動かぬ事実を、残酷なまでに突きつける結果となります。生徒の問題を一方的に断罪しようとしながら、自らの足元が崩れていることに気づかない教師たちの滑稽で醜い姿は、教育現場だけにとどまらない、社会全体の権力構造の歪みや、大人が振りかざす「正義」の欺瞞を、象徴的に描き出していると言えるでしょう。

このクラスで起きていたいじめの真相

物語の中盤、教師たちは教室に残された様々な痕跡から、このクラスに陰湿ないじめが存在することを確信します。そして、その主犯格として、容姿端麗で成績優秀ながらも、どこか人間離れした雰囲気を持ち、不穏な噂が絶えない生徒・万田に疑いの目を向けます。彼女の机から発見されたカッターナイフや赤いスプレーといった物品が、その根拠のない思い込みをさらに補強しました。これは、私たちが日常的に陥りがちな、「見た目」や「断片的な噂」といった表面的な情報だけで人物像を勝手に作り上げ、物事を判断してしまうことの危険性と愚かさを見事に示唆しています。

しかし、物語は観客の予測を裏切り、衝撃のどんでん返しを迎えます。万田こそが、クラスの生徒全員からターゲットにされ、人格を否定され続ける陰湿ないじめを受けていた、か弱い被害者であったことが判明するのです。彼女の机は教室から暴力的に運び出され、ベランダの外に打ち捨てられていました。制服はカッターでズタズタに切り刻まれ、黒板に書かれた「シネ」という呪いの言葉も、もちろん彼女に向けられたものでした。

この残酷な真実の露見は、現代社会が抱えるいじめ問題の根深い複雑さを浮き彫りにします。いじめの構図は、単純な「強い者対弱い者」という二元論では決して割り切れません。時には、嫉妬や羨望といった感情から、クラスの中心人物が孤立させられることもあります。そして、周囲の大人たちの無関心や、今回のような誤った先入観がいかに事態を悪化させ、被害者をさらに追い詰める凶器となりうるかを、この作品は鋭く、そして痛烈に告発しているのです。

映画『狂覗』ネタバレ考察とラストの評価

  • 物語の鍵を握る万田の正体とは?
  • 臨時教師・谷野を苛む過去のトラウマ
  • 迎える衝撃の結末・ラストを解説
  • 『狂覗』というタイトルの意味を考察
  • 鑑賞者の感想・評価レビューまとめ

物語の鍵を握る万田の正体とは?

万田という少女は、この物語において最も多面的で、最後までその本質が掴めない謎めいた存在として描かれています。彼女の人物像は、観る者の視点によって様々な解釈が可能です。一つは、「才色兼備の美少女」という完璧な仮面の下で、クラスメイトからの嫉妬による陰湿ないじめに耐え続ける「哀れな被害者」という側面です。彼女が教室のロッカーに隠れ、息を殺していた姿は、そのか弱さを象徴しています。

しかし、彼女の本当の姿はそれだけではありません。数学教師である管の弱みを握り、それを黙っている代わりに何をさせていたのか、その詳細は劇中で具体的には語られません。また、盗撮犯である上西教師とラブホテルから出てきたという管の証言が事実であれば、彼女が単なる無垢でか弱い被害者ではないことは明らかです。これらの断片的な情報をつなぎ合わせると、彼女が大人の世界の欺瞞や矛盾を冷静に見抜き、それを自身の利益のために巧みに利用するだけのしたたかさと、年齢不相応な冷徹な知性を持っていたという、もう一つの側面が浮かび上がってきます。

教師たちの醜い会話と不正行為の全てをロッカーの中から聞き、「言ってやる」と呟いた彼女は、この狂ってしまった状況を正常に戻すための、正義の告発者になろうとしたのかもしれません。しかし、その正義の行使が、結果として教師たちの最後の理性のタガを外し、さらなる狂気を呼び起こして自らの命を奪われるという、最悪の悲劇につながってしまいました。万田の真の正体は、純粋な被害者でもなければ、完全な悪の化身でもない、学校という閉鎖された特殊な空間が生み出した、美しくも恐ろしい「歪んだ鏡」のような存在だったと言えるのかもしれません。

臨時教師・谷野を苛む過去のトラウマ

主人公である谷野が物語を通して常に苦しめられる、過去のトラウマの正体は、この映画の倫理的な核心に触れる重要な要素です。彼が一度は愛した教職を自ら辞めるという、人生を左右するほどの決断を下したきっかけは、過去に勤務していた学校で目撃してしまった、ある「事故」の瞬間でした。

その真相は、同僚であった男性教師と、彼が受け持つクラスの女子生徒との間に、許されざる肉体関係があったことに端を発します。その男性教師が別の女性との結婚を決めたことを知った女子生徒が、彼に詰め寄り、口論となる中でもみ合いになった末に、誤って屋上から転落死してしまったのです。これは単なる事故ではなく、教師と生徒の不適切な関係が招いた悲劇でした。しかし、学校側はこのスキャンダルが外部に漏れることを恐れ、真相を隠蔽。「いじめに悩んだ末の自殺」という虚偽のストーリーをでっち上げ、警察や保護者に説明したのです。

谷野はその現場に居合わせており、真実を知る数少ない人物の一人でした。彼は学校側から、この隠蔽工作に口裏を合わせるよう強いられます。良心の呵責を感じながらも、組織の圧力に屈してしまった彼は、その罪悪感に耐えきれなくなり、教職を去ったのです。このトラウマは、彼の心に深い影を落とし続け、現在の荷物検査という異常な状況とフラッシュバックのように重なり合い、彼の精神を容赦なく蝕んでいきます。窓の外を女子生徒が落ちていく幻覚を何度も繰り返し見るのは、彼の拭い去ることのできない罪悪感と無力感の象徴です。彼は、生徒を守ることができなかった過去の後悔と、真実から目を背けた自分自身への激しい嫌悪感から、決して逃れることができずにいるのです。彼の苦悩に満ちた存在は、教育現場に蔓延る深刻な隠蔽体質や、一度過ちを犯した人間がその十字架を背負い続けることの重さを、観る者に痛切に訴えかけます。

迎える衝撃の結末・ラストを解説

物語のクライマックスと結末は、観る者の予想を遥かに超え、一切の救いもカタルシスも与えない、最悪の形で幕を閉じます。

全ての秘密を知り、それを告発しようとした万田を、生活指導担当の森がモップの柄で惨殺するシーンは、この映画が描き続けた狂気が頂点に達する、あまりにもおぞましい瞬間です。生徒を指導し、その健全な成長を助けるべき立場の教師が、自らの地位や秘密を守るという、極めて自己中心的な動機のために、ためらいなく生徒の命を奪う。この行為は、彼が教育者として、そして一人の人間として、完全に崩壊してしまったことを意味します。この凶行の引き金として、森が生徒の鞄から盗み出して服用した頭痛薬が、実は規制薬物(ドラッグ)であり、それが彼の判断力を麻痺させ、潜在的な暴力性を増幅させた可能性も、劇中ではっきりと示唆されています。

そして、その直後に森自身もまた、パニック状態のままベランダから転落死するという結末は、ある種の因果応報と言えるかもしれません。しかし、彼の死によって罪が償われるわけでも、何かが解決するわけでも全くありません。

映画のラストショットは、観る者の心に深い傷跡を残します。教室には、惨殺された万田の無残な死体、そして転落死した森の死体。その異常な光景の中に、授業を終えたばかりの、何も知らない生徒たちが無邪気な笑顔で足を踏み入れてきます。この後、この教室で一体何が起こるのか。この惨劇の真相は、またしても大人たちの手によって隠蔽され、闇に葬り去られてしまうのか。映画は、観客にそうした無数の重い問いを投げかけたまま、あまりにも唐突に終わります。この徹底的に突き放した、後味の悪い結末こそが、『狂覗』という作品が単なるホラー映画ではなく、社会の病理に鋭く切り込んだ問題作であることの何よりの証明なのです。

『狂覗』というタイトルの意味を考察

この映画の『狂覗』という一度見たら忘れられない印象的なタイトルは、「狂ったように覗く」と読み解くことができ、作品全体を貫く複雑なテーマを見事に表現しています。このタイトルには、少なくとも三層に重なった「覗く」という行為の意味が込められていると考えられます。

第一の層は、最も表層的で分かりやすい「教師が生徒を覗く」という意味です。物語の根幹をなす秘密の荷物検査は、文字通り教師たちが生徒たちの鞄の中身、すなわち彼らのプライベートや秘密を、狂気的とも言える執念で覗き見る行為そのものです。これは、管理する側とされる側の非対称な権力関係を象徴しています。

第二の層は、その逆である「生徒が教師を覗く」という意味です。万田が管や上西の弱みや秘密を冷静に観察し、それを把握していたように、生徒たちもまた、無垢な存在ではありません。彼らは、大人が思う以上に冷めた視線で教師たちの言動や欺瞞を観察し、その矛盾を鋭く見抜いています。この視線の逆転は、権力関係が決して一方的なものではないことを示唆しています。

そして第三の層が、この作品を単なる映画で終わらせない、最も重要で批評的な意味を持つ「観客が教室という狂気を覗く」というものです。この映画を鑑賞している私たち観客もまた、教室という閉鎖された空間(スクリーン)で繰り広げられる、目を背けたくなるような狂気の沙汰を、映画館や自室という絶対的な安全圏から一方的に「覗き見」している共犯者なのです。特に、ラストシーンで森がロッカーの覗き穴を覗き込み、中にいる万田の目と視線が合う場面は、スクリーンという第四の壁を通して、私たち観客自身が万田と目が合うような巧みな構図になっています。この演出は、これは決して他人事ではない、あなたもこの狂気の当事者であり、傍観者としての責任を問われているのだと、観る者の胸ぐらを掴んで突きつける、強烈なメタ的なメッセージと言えるでしょう。

鑑賞者の感想・評価レビューまとめ

『狂覗』は、そのあまりにも衝撃的な内容と、観る者に一切の救いを与えない後味の悪さから、鑑賞した人によってその評価が両極端に分かれる、極めて問題作と言える作品です。

肯定的な意見としては、「終始スクリーンに漂う、息が詰まるような不穏な空気が素晴らしい」「低予算のインディーズ映画でありながら、演出が非常に巧みで最後まで引き込まれる」「人間の内面に潜む猜疑心や狂気をえぐり出すような、本質的な怖さがある」「単なるスプラッターやホラーではなく、いじめや教育現場の隠蔽体質といった社会派なテーマが深く、考えさせられる」といった、作品の芸術性や批評性を高く評価する声が多く見られます。特に、物語のほとんどが教室という一つの空間だけで展開される、いわゆる「ワンシチュエーション・スリラー」としての完成度の高さを称賛する映画ファンは少なくありません。

一方で、当然ながら否定的な意見も数多く存在します。「あまりにも胸糞が悪く、鑑賞後に気分が悪くなった」「登場人物の誰にも共感できず、救いがなさすぎる」「暴力的な描写が直接的ではないものの、精神的に追い詰められる」「ストーリーが不親切で、説明不足だと感じる部分がある」といった感想も見受けられます。特に、倫理観が完全に欠如した登場人物たちの言動や、あまりにも絶望的な結末に対して、強い不快感や嫌悪感を覚える人も少なくないようです。

これらの賛否両論の感想は、この映画が観る者の感情や倫理観を、良くも悪くも強く揺さぶる、無視できない力を持っていることの何よりの証左です。気軽に楽しめるエンターテイメント作品を求めている方には決してお勧めできません。しかし、人間の狂気や社会の闇といった重いテーマに正面から向き合い、深く切り込むような作品を好む方にとっては、生涯忘れられない強烈な一本となる可能性を秘めています。

映画『狂覗』ネタバレ情報の総まとめ

この記事で詳細に解説してきた、映画『狂覗』に関する重要なポイントを、最後に箇条書きで簡潔にまとめます。

  • ある中学校の校長室で、教師の上西が瀕死の状態で発見される
  • 犯人探しの名目のもと、生徒不在の教室で秘密の荷物検査が行われる
  • この荷物検査は生徒だけでなく、教師たち自身の醜い秘密も暴き出す
  • 物語の中心人物は、心に傷を負う臨時教師の谷野と、才色兼備の生徒・万田
  • 谷野は過去に目撃した生徒の死亡事故に関する隠蔽のトラウマを抱えている
  • 当初いじめの加害者だと思われていた万田は、実はクラス全員からの被害者だった
  • クラス全体で、万田に対する陰湿で執拗ないじめが行われていた
  • 万田は身の危険を感じ、教室内の掃除用具ロッカーに隠れていた
  • 教師たちの秘密の会話を全て聞いた万田は、それを告発しようと「言ってやる」と呟く
  • 自らの保身に走った教師の森が、薬物の影響もありパニック状態に陥る
  • 森はロッカーの覗き穴から、中にいる万田をモップの柄で惨殺する
  • その直後、森自身も動転してベランダから転落し、死亡する
  • 教室には二つの死体と、何も知らずに戻ってきた生徒たちが残されるという最悪の結末を迎える
  • タイトル『狂覗』は、教師、生徒、そして観客という三層の「覗く」関係性を象徴している
  • 観る者を極端に選ぶ作品だが、社会派サイコロジカルスリラーとして高く評価する声も多い
ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
記事URLをコピーしました