【狗月神社】5話をあらすじから結末まで全てネタバレ解説

ずっちー
前話のおさらい
  • 物語の視点は、新たな登場人物である紗良(さら)と陸(りく)の夫婦、そして12年前に不慮の事故でこの世を去った、彼らの親友・リョウの物語へと移りました。
  • 夫の陸は、リョウが密かに想いを寄せていた紗良を、友情を裏切るような形で先に告白して射止めてしまったことに対し、長年にわたり心の奥底で重い罪悪感を抱え続けていました。
  • 紗良は狗月神社の老婆から、「狗憑き」を祓うには、死者の好物を用意し、心から愛する人が「帰って欲しい」とお願いする以外に方法はないと教わります。
  • 紗良はリョウの魂が憑依した陸に、12年間秘めてきた想いを告白した上で、涙ながらに別れを告げました。その願いは届き、リョウの魂は解放され、夫婦は呪いから解放されたのです。
  • 物語の最後では、紗良が新しい命を授かり、陸と共に過去の苦しみを乗り越えて、幸せな未来を歩み始めている姿が描かれ、彼らの物語はひとつの完結を迎えました。

【狗月神社】第5話をネタバレありでわかりやすく解説する

愛と罪、そして再生を描いた紗良と陸の物語から一転し、物語は再び新たな主人公・みひろの視点へと移ります。彼女を次々と襲ったのは、恋人との辛い破局、心休まらない劣悪な住環境、そして何よりも耐え難い、愛する家族の一員との永遠の別れでした。これは、ペットロスという深い悲しみの淵に沈む一人の女性が、決してしてはならない禁断の願いによって招いてしまった、あまりにも切なく、そして残酷な愛の物語の前編です。

どん底の日々と一筋の光

主人公のみひろにとって、今年という年はまさに最悪の連続でした 。長年同棲し、将来を考えていたはずの彼氏の浮気が発覚して関係は破局 。心の傷も癒えないまま、勢いで飛びつくように契約した格安の新居は、前の住人が室内で亡くなっている、いわゆる「事故物件」だったのです 。案の定、新しい生活を始めるどころか、引っ越してからは毎晩のように得体の知れない気配と金縛りに悩まされる、心身ともに休まらない日々が続いていました

しかし、彼女にとってこれまでの不幸が霞んでしまうほどに辛かった出来事は、16年間、文字通り家族として共に人生を歩んできた愛猫「こむぎ」が、老衰で静かに息を引き取ってしまったことでした 。失意の底で、ただ無気力にテレビを眺めるみひろの耳に、衝撃的なニュース速報が飛び込んできます。絶大な人気を誇るアイドルグループ「CR4SH」のメンバー・雨宮ユウトが、映画の撮影中にビルから転落し、意識不明の重体になったというのです 。そして、彼が緊急搬送された病院は、皮肉にも彼女が住むアパートの目と鼻の先でした

謎の訪問者とその正体

その夜もまた、いつものように金縛りの恐怖に怯えながらベッドに入ったみひろの耳に、静寂を破るように玄関のドアを叩く音と、か細く、しかし確かに自分を呼ぶ声が聞こえてきます 。恐怖と好奇心が入り混じる中、おそるおそるドアを開けると、そこに立っていたのは、なぜか湯帷子(ゆかたびら)のような簡素な着物をまとった、見知らぬ美しい青年でした。彼は、呆然とするみひろを見るなり、開口一番、到底信じがたい言葉を口にします。

「こむぎだよ 会いに来たよ」

あまりにも非現実的な出来事に、手の込んだドッキリか何かだと疑うみひろ 。しかし、雨宮ユウトの姿をした青年は、自分がなぜ人間の姿でここにいるのか、その驚くべき経緯を訥々と語り始めます。彼によると、事故に遭った雨宮ユウトの魂が肉体から完全に抜け落ちて空っぽになった瞬間 、「黒い人」と名乗る謎の存在に「この体に入りなさい」と導かれ 、その体を借りることで、再びこの世に舞い戻ってきたというのです。

二人だけの記憶

それでもなお、目の前の青年を信じることができず、悪質な悪戯だと突き放すみひろ。それに対し、こむぎと名乗る青年は、彼女とこむぎしか知り得ない、かけがえのない思い出の数々を次々と語り出します。段ボール箱の中で寒さに震えていた時にみひろに拾われた日のこと 、食卓のからあげを盗んでこっ酷く怒られたこと 、彼女がプレゼントしてくれたお気に入りのおもちゃを失くしてしまったこと 。そして何より、「ぼくは毎日 みひろと寝たよ」という、誰にも入り込むことのできない、決定的な一言 。それは紛れもなく、みひろと愛猫こむぎが二人だけで紡いできた、16年間の愛情の歴史そのものでした。

実はみひろは、こむぎを失った深い悲しみに耐えきれず、あの「狗月神社」を訪れていました 。「死んだ犬が帰ってくるなら、きっと猫だって…」と 、藁にもすがる思いで、必死に祈りを捧げていたのです 。自分の身勝手で純粋な願いが、本当にこむぎを呼び戻してしまった。その事実に、彼女は喜びと、犯してはならない禁忌に触れてしまった罪悪感が入り混じった、複雑な感情に打ちひしがれるのでした。

帰還が意味するもの「呪い」

しかし、奇跡の再会がもたらした喜びは、すぐに新たな、そしてより深い恐怖へと姿を変えます。こむぎは、みひろが毎晩金縛りにあっていた原因である部屋の悪霊の存在にやすやすと気づくと、「この体もう壊れちゃってるから タマシイ食べないと動けなくなっちゃうんだって」という恐ろしい言葉と共に 、その霊をいとも簡単に捕食してしまうのです

部屋を彷徨っていた悪霊がいなくなったことで、みひろを悩ませていた体の不調は嘘のように消え去り 、一時的な平穏が訪れます。彼女は、世間を騒がせている人気アイドル失踪のニュースに怯えながらも、「今度こそ こむぎを幸せにする」と固く心に誓い 、彼との奇妙で危険な新しい生活を受け入れる決意を固めます。

しかし、こむぎが語る死後の世界の真実は、あまりにも過酷で、残酷なものでした。多くの飼い主が信じ、慰めとしている、動物たちが死後に安らかに暮らすという「虹の橋」の美しい物語を、彼は「ニンゲンの都合いいファンタジー」だと一蹴します 。彼らのような動物が死後に待つのは、暗くて冷たく、音も何もない無の空間で 、ただ「黒い人」にその名を呼ばれるのを待つだけの場所だというのです 。そして、こむぎがその永遠の待機場所から抜け出し、みひろの元へ戻ってこられたのは、他でもない彼女の切なる願いが、彼に「のろい」をかけたからに他なりませんでした

悲劇的な結末への序章

呪いの代償か、本来の持ち主を失った雨宮ユウトの肉体は、すでに限界を迎えつつありました。久しぶりに外の世界を楽しもうと外食に出かけた先で、こむぎは突然「からだがバラバラになりそう」と激しい苦痛を訴え 、人通りのある路上で意識を失い倒れてしまいます。通行人が駆け寄るも、すでに彼の呼吸は止まっていました 。再び愛する存在を失う絶望に泣き崩れるみひろ。その時、まだ猫としての本能が残っていたこむぎは、弱って飛べなくなっていた鳩を捕食し 、その魂を喰らうことで一時的に生命力を取り戻します

その常軌を逸した光景を目の当たりにしたみひろは、ようやく自分が犯した罪の本当の重さを悟ります 。自分の、愛するがゆえの身勝手な願いが、愛するこむぎを安らかな眠りの地である虹の橋から引きずり下ろし、他者の魂を喰らわなければ生きていけない、おぞましい化け物に変えてしまった 。その取り返しのつかない現実に、彼女はただ立ち尽くすことしかできないのでした。

【狗月神社】第5話を読んだ感想(ネタバレあり)

これまでのエピソードとはまた一線を画し、今回は「ペットロス」という、現代社会において多くの人が共感しうる、非常にデリケートで切実なテーマから物語が始まったことに、まず心を強く掴まれました。愛するペットを失った時の、胸が張り裂けるような悲しみと、何をしても決して埋まることのない喪失感。そこから、理屈ではありえないと分かっていながらも禁断の願いに手を出してしまう主人公みひろの心情は、ペットをかけがえのない家族として愛した経験のある人ほど、痛いほどに共感し、理解できるのではないでしょうか。

人気アイドルの体を乗っ取って帰ってくるという、一見すると少しコミカルにも思える突飛な設定でありながら、こむぎが語る飼い主への純粋で真っ直ぐな愛情が、この物語に切ないリアリティと深みを与えています。特に、多くの飼い主が心の支えにしている死後の世界「虹の橋」の物語を、「ニンゲンの都合いいファンタジー」と、愛猫自身の口から断罪させるシーンは、本作の中でも屈指の残酷さとテーマ的な鋭さを持っており、多くの読者の心に深く突き刺さったはずです。

愛するがゆえの身勝手な願いが、結果として最も愛する対象に解くことのできない「呪い」をかけてしまうというシリーズ共通のテーマが、これまで以上に重く、そして救いのない形で描かれています。純粋な愛情が、最も残酷で悲劇的な結末を招いてしまうという、この物語の皮肉。この物語が一体どのような結末を迎えるのか、後編から目が離せません。

【狗月神社】第5話のネタバレまとめ

  • 主人公のみひろは、失恋、事故物件への引っ越し、そして16年間連れ添った愛猫こむぎの死という不幸が重なり、人生のどん底にいました 。
  • こむぎを失った悲しみに耐えきれず、狗月神社で「こむぎを返してください」と願った結果、こむぎの魂は、撮影中の事故で意識不明となった人気アイドル・雨宮ユウトの体に憑依する形で現世に帰ってきます 。
  • 雨宮ユウトの姿をしたこむぎは、みひろと過ごした16年間の詳細な記憶を語ることで、自分が本物のこむぎであることを証明します 。
  • しかし、こむぎが語る死後の世界は、飼い主が信じる「虹の橋」のような楽園ではなく、暗く冷たい無の待機場所であり、みひろの願いが彼に「呪い」をかけ、成仏を妨げていたことが判明します 。
  • 憑依している雨宮ユウトの肉体はすでに限界を迎えており、生命活動を維持するためには、他の「タマシイ」を捕食しなければならないという恐ろしい状態に陥っており、物語はさらなる悲劇を予感させながら終わります 。

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ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
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