【狗月神社】4話をあらすじから結末まで全てネタバレ解説

ずっちー
前話のおさらい
  • 物語の視点は、新たな登場人物である紗良(さら)と陸(りく)の夫婦、そして12年前に不慮の事故で亡くなった彼らの親友・リョウへと移りました。
  • 夫の陸は、リョウが密かに想いを寄せていた紗良を、友情を裏切るような形で先に告白して射止めてしまったことに対し、長年にわたり心の奥底で重い罪悪感を抱え続けていました。
  • 一方で、妻の紗良もまた、亡き親友リョウへの淡い想いを完全には断ち切れないまま、はっきりと好意を示してくれた陸と結婚したという、誰にも打ち明けることのできない複雑な過去を胸に秘めていたのです。
  • リョウの死から12年の歳月が流れたある日、本来は右利きであるはずの陸が、リョウと全く同じように左利きになるという、常識では説明のつかない異変が彼の身に起こります。
  • 「狗月神社」にまつわる不気味な呪いが、今度は自分たちの運命をも静かに、しかし確実に狂わせようとしていることを直感した紗良は、言い伝えの真偽を確かめるべく、一人で神社へと向かうのでした。

【狗月神社】第4話をネタバレありでわかりやすく解説する

前話のラストで、夫・陸の身に起きた常軌を逸した異変の正体を突き止めるため、藁にもすがる思いで狗月神社を訪れた紗良。彼女をそこで待っていたのは、この世の理を遥かに超えた言い伝えの、あまりにも重く、そして残酷な真実でした。愛する夫を、そしてかつて愛した親友の魂を救うため、彼女はあまりにも辛く、そして悲しい究極の決断を迫られることになります。これは、愛と罪が交錯し、別れを経て再生へと向かう、魂の物語です。

神社の老婆が語る「狗憑き」の真実

紗良がおそるおそる、神社の境内で出会った老婆に「本当に死んだ犬が帰ってくるなんてことがあるんですか?」と尋ねると、老婆は全ての事情を見通したかのような穏やかな笑みを浮かべ、はっきりと「ええ もちろん ありますよ」と肯定します 。 それは古くから「狗憑き」と呼ばれ、決して犬に限った話ではなく、人の魂もまた、様々な形でこの世に舞い戻ってくることがあるというのです 。 時には全く違う生き物の姿を借りて現れたり、またある時は目には見えない霊的な形で戻ってきたり、そして時には、生きている誰かに憑りつくという、最も忌むべき形で帰還することもあると語ります

愕然とする紗良は、最後の望みを託して「もし人に取り憑いたら…祓うことはできるんですか…?」と、震える声で最も聞きたかった核心的な質問を口にします 。 老婆は静かに頷き、その唯一の方法を紗良に授けました。それは、強力な霊能者がお経や御札を用いるような、おどろおどろしい儀式的なものではありませんでした。

「死者が生前 好きだった食べ物を たくさん用意してあげて」「食べてもらった後で ていねいにお願いするの」「向こう側に 帰ってくださいってね」

なぜ、そのような人間的な行為で、恐ろしい憑依現象を解くことができるのか。老婆はその理由を、あまりにも切なく、そしてこの世のどんな真理よりも優しい言葉で説明します。「大好きな人に お願いされたら そうするしか ないもの」 「だって お互い 望んでいるんですもの」と 。 つまり、「狗憑き」という呪いを解く唯一の方法は、憑りつかれた者と憑りついた魂、その双方を深く愛する者からの、心からの誠実な「別れの願い」だったのです。

夫の異変と紗良の決意

重い真実を抱え、鉛のような足取りで自宅へと戻った紗良が目にしたのは、リビングのソファで深く眠り込んでいる夫・陸の姿でした。彼の耳にはワイヤレスイヤホンがつけられており、そこから微かに漏れ聞こえてくるのは、生前のリョウが好んで聴いていた洋楽の、物悲しいメロディと英語の歌詞でした 。 「珍しいね 陸 英語の歌 ニガテって 言ってたのに」という紗良の何気ない呟きに、眠っていたはずの陸の口から漏れた言葉は「…リョウ?」という、明らかに彼自身のものではない、別人格の問いかけでした

この瞬間、紗良の中で全ての疑念は、冷たい確信へと変わります。今、愛する夫の体を支配しているのは、紛れもなく12年前に亡くなった親友・リョウの魂なのだと。彼女は、神社の老婆に教わった通り、リョウの魂を祓い、夫を取り戻すことを固く決意します。そのために、彼がこの世で過ごした短い人生の中で、こよなく愛した食べ物を思い出すのでした。

スーパーマーケットの喧騒の中、紗良は幸せだった高校時代の記憶を必死に手繰り寄せます。リョウが好きだったミートソースのスパゲッティ、昼休みによく三人で分け合って食べた学校の売店の揚げパンと、カチカチに凍った冷凍リンゴ… 。 そして、数ある好物の中でも、最も彼の心を掴んでいた、とっておきの一品を思い出します。それは、紗良が家族のために作った、ごく普通の家庭料理のギョーザでした 。 「紗良が 作ってくれるなら 絶対 好きになるよ」と、少し照れくさそうにはにかみながら言ったリョウの顔が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇るのでした

最後の晩餐と別れの言葉

その夜、二人が暮らすマンションの食卓には、リョウの好物だけがずらりと並んだ、あまりにも奇妙で、そして悲しい「最後の晩餐」が用意されました。 目の前に座る、愛する夫・陸の姿をしたリョウに向かって、紗良はゆっくりと、そして一言一言を噛みしめるように、静かに語りかけ始めます。

楽しかった高校時代のこと、理由もなく笑い転げたこと、ずっと三人一緒だと信じて疑わなかったこと 。そして、これまで12年間、誰にも言うことができず、自分自身の心にさえ固く蓋をしてきた本当の気持ちを、初めて涙ながらに言葉にしました。

「あたし リョウのこと 好きだった」

それは、12年というあまりにも長い歳月を経てようやく届けられた、遅すぎた告白でした。しかし、彼女は言葉を続けます。「でも それが あたしにとっては 苦しいの」 「もう 時間が 経ちすぎて どうすることも できないの」と 。 そして、溢れ出しそうになる涙を必死にこらえながら、愛する夫を取り戻すため、そしてかつて愛した親友を弔うための、最後の言葉をはっきりと紡ぎ出すのです。

「だから リョウには …帰って欲しい」

呪いの結末と新たな始まり

紗良の魂からの言葉は、陸の身体に宿るリョウの心に、確かに届きました。陸の姿をした彼は、全ての感情を押し殺したかのような、静かで、どこか諦観を帯びた表情で、ただ一言「わかった」と答えます

その言葉が、永遠の別れの合図でした。直後、陸の体は激しいけいれんを起こし、まるで操り人形の糸がぷっつりと切れたかのように、リビングの床に激しく倒れ込みます 。 しばらくして意識を取り戻した彼は、何が起きたのか分からないといった表情で戸惑いながらも、元の優しく穏やかな陸に戻っていました。愛する夫に憑いていた親友の魂が、紗良の願いを聞き届け、ようやく向こう側へと旅立ったのです。紗良は、失われていたはずの夫の温もりを確かめるように、彼の胸で静かに涙を流すのでした。

翌朝、陸は何事もなかったかのように、紗良の体調を気遣いながらいつものように仕事へと向かっていきます 。 彼をしっかりと見送った紗良は、ようやく訪れた本当の平穏を噛みしめるかのように、一人リビングのソファで深く、安らかな眠りにつくのでした

時間は流れ、物語は静かなエピローグへと移ります。紗良のお腹は大きく膨らみ、彼女と陸の間に新しい命が宿っていることがわかります 。夕飯の献立を相談する、ごくありふれた日常の会話。「なんでもいい」と優しく笑う夫に、紗良は「『なんでもいい』が 一番困るんだってばー」と、過去の苦しみを乗り越えた者だけが持つ、穏やかで幸せそうな笑顔を向けるのでした 。 長く、暗いトンネルを抜け、二人はようやく、本当の意味での未来へと力強く歩き始めたのです。

【狗月神社】4話を読んだ感想(ネタバレあり)

前話までの、じっとりとした恐怖が肌にまとわりつくようなホラーテイストから一転し、今回は愛と喪失、そして魂の再生を描いた、非常に切なくも美しいラブストーリーとしての側面が強く描かれており、私の心は深く、そして激しく揺さぶられました。特に、紗良が陸の姿をしたリョウに対して、12年間心の奥底に秘めてきた本当の想いを告白し、それと同時に永遠の別れを告げなければならないシーンは、本作屈指の名場面だと思います。愛する人を、自分自身の言葉で、愛しているがゆえに祓わなければならないという紗良の壮絶な葛藤と、それでも未来のために前を向こうとする決意には、涙なくしては読むことができませんでした。

また、「狗憑き」という恐ろしい呪いを解く唯一の方法が、物理的な儀式や霊能力ではなく、「愛する人からの心からのお願い」であるという設定が、この物語の深いテーマ性を見事に象徴していると感じます。それは、死者の魂をこの世に縛り付けているのも、またそれを安らかに解放してあげられるのも、結局は残された者の純粋な「愛」や「想い」であるという、この世の理を超えた普遍的なメッセージを、私たち読者に投げかけているようです。

かずねの物語が、救いのないあまりにも悲劇的な結末を迎えたのに対し、紗良と陸の物語は、大きな犠牲と耐え難い痛みを伴いながらも、未来への確かな希望を感じさせるハッピーエンドとして締めくくられました。この対照的な二つの結末は、「狗月神社」という作品が、単なる恐怖を描くホラーではなく、人間の業や、愛情が持つ複雑さ、そして再生の可能性を描く、非常に奥深いヒューマンドラマであることを改めて示してくれたように思います。読後には、恐怖よりもむしろ、温かい感動と、生きること、そして愛することの切なさが心に深く残る、忘れられない一話となりました。

【狗月神社】4話のネタバレまとめ

  • 紗良は狗月神社の老婆から、「狗憑き」を祓うには、死者が生前に好んだ食べ物を用意し、心から愛する人が「帰って欲しい」とお願いする以外に方法はないと教わります 。
  • 愛する夫・陸に憑依したのが、亡き親友・リョウの魂であることを確信した紗良は、夫を取り戻すため、リョウの魂を祓うという悲しい決意を固めます。
  • 紗良はリョウが生前大好きだった手料理のギョーザなどを用意し、彼に12年間秘めていた「好きだった」という想いを告白した上で、涙ながらに「帰って欲しい」と伝えます 。
  • 紗良の魂からの願いを受け入れたリョウの魂は、陸の体から静かに離れていき、夫婦は長く続いた呪いから解放され、本当の意味での平穏な日常を取り戻します 。
  • 数年後、紗良は新しい命を授かり、陸と共に過去の苦しみを乗り越えて、幸せな未来を歩み始めている姿が描かれ、彼らの物語は完結します。

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ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
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