【おかえりアリス】ネタバレ解説|結末と考察

ずっちー

押見修造先生が描く漫画、おかえりアリス。その最終巻までの結末や、各巻のあらすじに関する感想を知りたい方も多いのではないでしょうか。本作は、洋平、慧、三谷という3人の幼馴染の関係性を軸に、阿野というキャラクターも加わり、物語は複雑に展開します。

特に、慧が男を降りるという宣言や、作中に散りばめられたキスなどの性的描写は、多くの考察や伏線の議論を呼んでいます。この記事では、おかえりアリスの物語の核心に触れるネタバレを含みつつ、その魅力を深く掘り下げていきます。

この記事を読むと以下のことが理解できます
  • おかえりアリスの主要な物語の流れと結末
  • 洋平、慧、三谷、阿野の複雑な関係性の変化
  • 「男を降りる」という慧の発言の真意
  • 物語の核心となる衝撃的な展開と伏線

おかえりアリス序盤のネタバレと展開

  • 幼馴染3人の歪んだ再会
  • 謎めいた慧の魔性とキス
  • 洋平と三谷の関係性の変化
  • 慧への対抗心と三谷の行動
  • 洋平の純粋な葛藤と性の悩み

幼馴染3人の歪んだ再会

物語の幕開けは、主人公である亀川洋平が高校の入学式で、中学時代から想いを寄せる幼馴染の三谷結衣と再会する場面から始まります。同じクラスになれたことを喜ぶ洋平ですが、彼の平穏な高校生活への期待は、もう一人の幼馴染の登場によって打ち砕かれます。その人物は、中学時代に突然転校してしまった室田慧でした。

しかし、再会した慧の姿は、洋平の記憶にある少年時代のものとは全く異なっていました。長く伸ばした髪、制服のスカートという、完全な女性の姿で現れたのです。洋平は三谷のことが好きですが、一方で三谷は中学時代、慧に告白して振られた過去を持っていました。この複雑な関係性の土壌に、女装した慧が洋平に対しても不思議な魅力を放ち始めます。

この歪な再会が、止まっていた3人の歯車を再び、しかし決定的に狂った形で動かし始めます。慧の衝撃的な変貌は、洋平と三谷の心、そして彼らの性に対する認識を根底から揺さぶる、物語の強力な起点となっています。

謎めいた慧の魔性とキス

再会した慧は、その言動の端々に測り知れない魔性を感じさせます。教室での自己紹介では、教師の制止を振り切り、「男はもう降りました」と堂々と宣言し、クラスメイトたちを困惑させます。この言葉は、本作の根幹に関わる重要なテーマを提示しています。

慧の行動はさらにエスカレートしていきます。1巻で描かれる洋平の家での再会パーティーの帰り道、慧はまず三谷に、そして直後に洋平に対しても、立て続けに濃厚なキスをします。特に洋平は、慧が生物学的には男性であると知りながらも、不意打ちのキスに強く動揺し、勃起してしまうのです。

この一連のキスは、単なる挨拶や悪ふざけではありません。洋平と三谷の関係性、そして彼ら自身の性に対する曖昧な認識を、強制的に混乱の渦へと突き落とします。慧の行動の真意は序盤では全く読めず、彼が何を目的として2人をかき乱すのかが、物語の大きな謎の一つとなります。押見修造先生特有の、悲しみ、哀れみ、からかいといった相反する感情が混濁したかのような表情描写が、これらのシーンの異常な緊迫感を際立たせています。

洋平と三谷の関係性の変化

慧という強力な「異物」の登場によって、洋平と三谷の間にあった微妙な関係も急速に変化を余儀なくされます。洋平は、中学時代から一途に三谷への好意を持ち続けていますが、同時に、男性であるはずの慧が放つ魔性にも抗いがたく惹かれていく自分に気づき、深い戸惑いを覚えます。

一方の三谷は、複雑な心境でした。かつて自分が想いを寄せた慧が、今度は自分ではなく洋平に積極的に接近していく様子を見せつけられます。さらに、洋平自身も慧に夢中になっていく姿を目の当たりにし、1巻の最後には「分かんないけどくやしい」という感情を漏らします。この「悔しさ」は、慧への対抗心、そして洋平を奪われることによる自身の女性としての価値が脅かされることへの焦りから来ています。

この焦燥感が、三谷を洋平に対して積極的にアプローチさせる動機となります。それは純粋な好意というよりも、慧から洋平を引き離し、自身の性的価値を再確認するための戦略的な行動でした。

慧への対抗心と三谷の行動

三谷の洋平への接近は、慧への対抗心が顕著になるにつれて、より計算高いものへと変貌していきます。その象徴的な出来事が、2巻の終わりで描かれます。三谷は洋平を自室に呼び出しますが、その時、部屋の押入れには慧が隠れていました。三谷は慧の存在に気づきながら、あえて洋平を誘導し、慧に聞こえよがしに「三谷と付き合いたい」という告白の言葉を引き出すのです。

この行動は、慧に対する完全な勝利宣言であり、洋平という「トロフィー」を手に入れたことを見せつけるための演出でした。この一件で、三谷の隠された側面、いわゆる「デビル三谷」としての計算高さと支配欲が露わになります。彼女は洋平の純粋な好意を利用してでも、慧との三角関係において優位に立とうとします。

しかし、この三谷の行動こそが、結果的に3人の関係を修復不可能なほどこじらせ、特に洋平を精神的に深く追い詰めていく大きな要因となっていくのです。

洋平の純粋な葛藤と性の悩み

慧と三谷という二人の間で板挟みになった洋平は、思春期の少年らしい純粋な葛藤と、性に関する深刻な悩みに直面します。三谷と付き合うことになった洋平ですが、3巻ではキスをしようとして「まだ早くない?」と拒絶されてしまいます。彼の焦りは募り、その後、三谷の方から性行為に誘われた際には、過度の緊張から勃起不全に陥ってしまうのです。

この失敗は、洋平の「男としての自信」を決定的に打ち砕きます。女性である三谷とはうまく性的な関係を結べない一方で、彼は皮肉にも慧とは性的な接触を経験してしまいます。同じく3巻で、三谷との関係に傷ついた洋平は慧に慰められ、なし崩し的に一緒にシャワーを浴び、強い快感を覚えてしまうのです。

「性欲が悪いんだ」「性欲に流されたくない」と洋平は悩みます。三谷(女性)との関係では失敗し、慧(男性)との関係では感じてしまうというねじれた現実が、彼の性そのものに対する罪悪感を強めていきます。この思春期特有の未熟さと、押見作品に通底する性への業の意識が、洋平の苦悩を深くしています。

おかえりアリス終盤のネタバレと考察

  • 慧が「男を降りた」本当の理由
  • 性に翻弄される洋平と三谷
  • 洋平の自傷と性の地獄
  • 慧の人間らしい葛藤の露呈
  • 最終巻の幻想的な結末

慧が「男を降りた」本当の理由

物語が中盤から終盤へと進むにつれ、慧が冒頭で宣言した「男を降りた」という言葉の真意が、少しずつ明らかになっていきます。その重要な転機となるのが、4巻で登場する美術部の先輩・阿野蓮(あのれん)との対話です。阿野もまた、自身の女性らしくない身体にコンプレックスを抱える人物でした。

慧は、同じような悩みを共有できる阿野に対し、初めて胸の内を明かします。「僕はただの人だよ」「男でも女でもなかった頃に戻りたい」と。慧の女装は、単に女性になりたかったというトランスジェンダー的な動機だけではありませんでした。それは、第二次性徴によって自分の中に芽生えた性欲や、社会から押し付けられる「男らしさ」というジェンダー規範そのものから逃れ、性別という枠組みが存在しなかった純粋な幼少期へ回帰したい、という切実な願望の表れだったのです。

しかし、慧はその手段として「女装」を選んだことで、新たな矛盾に直面します。3巻で先輩の男子生徒から性的な嫌がらせを受けるように、彼は「女性」という別の性の枠組みに縛られ、新たな性的対象として見られるというジレンマに苦しむことになります。彼の試みは、性を超えようとして、別の性へと囚われる結果を招いていたのです。

性に翻弄される洋平と三谷

5巻に入ると、洋平と三谷の関係は、性によってさらに歪んだものへと変質していきます。三谷は、洋平との性行為に(4巻の終わりで)ようやく成功します。しかし、洋平はその行為の最中、「まるでオナニーみたいだ」という強烈な虚しさを感じていました。この感想は、1巻で慧が洋平に言った「オナニーよりすごいこと教えてあげる」という言葉と、痛烈な対比をなしています。

三谷にとって、この性行為は洋平を完全に「手に入れた」証であり、自身の性的価値を証明するものでした。彼女は、慧に対して絶対的な優位性を示すため、洋平を性的に支配しようとします。5巻では「焦らしプレイ」を行い、6巻では慧と阿野に遭遇した際、わざと洋平の下半身を刺激し、慧の前で洋平を辱めるような行動に出ます。

洋平は、三谷のそうした支配的な態度や、性的な玩具として扱われることに強い嫌悪感を抱きます。しかし、同時に自身の性欲には逆らえず、三谷の要求に応じてしまう自己嫌悪にも陥ります。2人の関係は、もはや愛情ではなく、「性」を介した支配と服従、あるいは慧への復讐の道具という、地獄のような様相を呈していきます。

洋平の自傷と性の地獄

6巻で、洋平の精神的な苦悩はついに限界点に達します。三谷による支配的な性、慧への背徳的な感情、そして自分自身の抑えきれない性欲。その全てが絡み合い、彼は「たってもたたなくても」「ヤッてもヤられても」「男でも女でも」——性に関わる全てが地獄である、という結論に至ります。

性というものが存在するからこそ、自分は三谷に道具として扱われ、慧に惹かれる罪悪感に苦しみ、自分自身をも嫌悪してしまう。彼は、性こそが全ての苦しみの根源であると思い詰めます。そして、阿野の家を飛び出した洋平は、自宅でカッターナイフを手に取り、その苦しみの根源である自身の性器を切り落とそうとするという、衝撃的な自傷行為に及びます。

幸い、この試みは未遂に終わります。しかし、この常軌を逸した行動は、洋平が「性」という鎖によってどれほど絶望的なまでに追い詰められていたかを示す、本作において最もショッキングなシーンの一つです。彼は、その地獄から脱出するために、文字通り性を捨て去ろうとしたのです。

慧の人間らしい葛藤の露呈

これまで、洋平や三谷の葛藤をどこか超越的な視点から見つめ、時にかき乱し、時に導くような、全能神あるいはトリックスターのような存在に見えた慧。しかし6巻では、彼の人間らしい弱さと葛藤が初めて描かれます。この巻の表紙にも、これまでの余裕ある笑みとは全く異なる、苦悩に満ちた慧の表情が採用されています。

彼は、性に翻弄された末に自傷という破滅的な行動に出た洋平の姿、そして洋平を性で支配しようとする三谷の姿を目の当たりにし、深く動揺します。そして、吐き出し先となってくれていた阿野に対し、「結局僕も、その中にいる」と、これまで見せなかった弱音を吐露するのです。

この言葉は、自分が目指した「性からの離脱」という理想が、結局のところ洋平を救うことはできず、それどころか自分自身もまた洋平たちと同じ「性の地獄」に囚われているという、痛切な自覚とジレンマの表れです。このシーンによって、慧は超越者から、洋平たちと共に苦しむ一人の当事者へと変化し、物語は最終局面へと向かいます。

最終巻の幻想的な結末

7巻(最終巻)で、物語はクライマックスを迎えます。洋平の衝撃的な自傷行為は、結果として4人の歪んだ関係性を一度リセットするきっかけとなります。三谷は、洋平や慧の苦悩の深さを知り、彼らの世界から身を引くことを選びます。「女だって降りられるよ」という慧の誘いに対し、彼女は涙ながらに「さよなら」を告げ、日常へと帰っていきました。

そして慧は、一つの儀式として、自身の女性性の象徴でもあった長い髪をバッサリと切り落とします。これは「男を降りる」に続き、女装によって囚われていた「女も降りる」ことを意味し、性別という枠組みそのものからの完全な解放を目指す、彼の新たな覚悟の表れと考えられます。

その後、慧と洋平は、精神世界が融合するかのような幻想的なシーン(フュージョンシーン)を経験します。「はじめはここにいた」という言葉通り、2人は性別が分かたれる以前の、より根源的な場所で結びつきます。

最終話「Brand new day」では、いくらかの月日が流れたことが示唆されます。細身のパンツに大きめのワイシャツという中性的な服装になった慧と、洋平が2人で静かに相合い傘をして歩いています。彼らがどのような関係になったのか(性転換したのか、男性のまま愛し合っているのか等)、具体的な答えは一切描かれません。

しかし、2人は穏やかな表情で「好き」という感情をはっきりと確認し合います。これは、社会的な性別や既存の関係性の枠組みにとらわれない、2人だけの全く新しい関係性を見つけ出し、受け入れたことを示す、曖昧でありながらも希望に満ちた結末と言えるでしょう。

おかえりアリスのネタバレ考察まとめ

  • おかえりアリスは押見修造による性の葛藤を描いた漫画
  • 主人公は亀川洋平、幼馴染に室田慧と三谷結衣がいる
  • 慧は高校で女装して再会し「男を降りました」と宣言する
  • 洋平は三谷に恋心を抱くが、慧の魔性にも惹かれていく
  • 三谷はかつて慧が好きだったが、慧への対抗心から洋平を利用する
  • 慧は1巻で洋平と三谷の両方にキスをする
  • 洋平は三谷と付き合うが、性的な関係で失敗し自信を失う
  • 慧の「男を降りる」目的は、性別にとらえない幼少期への回帰
  • 三谷は洋平を性で支配し、慧への優位性を示そうとする
  • 洋平は性欲を地獄と感じ、6巻で性器を自傷しようとする
  • 慧もまた、自身が性から逃れられないことに葛藤していた
  • 最終巻で慧は断髪し、「女も降りる」ことを示す
  • 洋平と慧は幻想的なシーンで精神的に融合する
  • 結末は、洋平と慧が性別を超えた新しい関係性を見つける
  • 明確な答えを提示せず、曖昧だが希望のある終わり方である
ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
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