【ようこそfactへ！】ネタバレ完全版｜陰謀論にめり込む心理とその末路とは？

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この記事を読んでいるあなたは、

「ようこそfactへのネタバレが知りたい」
「物語のテーマや結末を詳しく知りたい」
「陰謀論がどう描かれているのか気になる」

と思って検索したのではないでしょうか。

その気持ち、よくわかります。この作品は、単なるフィクションではなく、現実社会と深く結びついたテーマを持つ物語です。だからこそ、「どんな結末を迎えるのか」「陰謀論がどのように描かれているのか」「登場人物の行動にはどんな意味があるのか」など、多くの疑問が浮かぶのも当然です。

本記事では、『ようこそfactへ』のストーリーや登場人物を詳しく解説しつつ、物語の奥深さやメッセージ性に迫ります。単なるネタバレだけでなく、「なぜこの物語が話題になっているのか」「どのような視点で読むとより楽しめるのか」まで踏み込んで解説するので、読み終わったあとには、この作品の本質がよりクリアに理解できるはずです。

私はこれまで、数多くの漫画や文学作品を分析し、読者にわかりやすく伝える記事を執筆してきました。『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』についても、単なる感想ではなく、作品の持つ社会的な意味や心理描写のリアルさに注目しながら、客観的な視点で解説していきます。

この記事を読むことで、「物語の深いテーマが理解できる」「陰謀論がどのように人の心を支配するのかがわかる」「結末の意味をしっかり考察できる」というメリットがあります。一方で、「ネタバレを含むため、未読の人にはストーリーの驚きが半減する可能性がある」という点には注意が必要です。

それでは『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』の魅力を深掘りしていきましょう。

【ようこそfactへ】ネタバレの前に概要を紹介

【ようこそfactへ】ネタバレ７選！

ネタバレ① 渡辺が「選ばれし者」として陰謀論にのめり込む

渡辺は、自分を「論理的思考が得意な人間」だと信じている。しかし、実際は自分にとって都合のいい理屈をこじつける癖があり、客観的な判断が苦手だ。そんな彼の前に現れたのが、陰謀論を語る「先生」という男だった。

先生は渡辺に「君は選ばれし者だ」と告げる。そして、「世界は巨大な陰謀によって支配されている」「真実を知るのはごく一部の人間だけ」といった話を聞かせる。渡辺は次第にその言葉に影響を受け、「自分は特別な存在なのかもしれない」と思い込むようになる。これは、彼が抱えていた「平凡な日常では満たされない承認欲求」を刺激するものだった。

また、彼が参加する陰謀論コミュニティ「FACT(東京S区第二支部)」では、メンバーたちが一体感を持ち、「自分たちは真実に目覚めた者」と誇りを持っていた。この環境が、渡辺にとって初めて居場所を感じられる場所となる。こうして彼は、ますます陰謀論にのめり込んでいく。

しかし、渡辺が信じる「選ばれし者」という立場は、本当に彼自身の能力によるものなのか、それとも先生が利用しやすい「操りやすい人物」として選んだだけなのか。彼の考えが深まるにつれ、その疑問が徐々に浮かび上がることになる。

ネタバレ② 渡辺が飯山に失恋し、陰謀論にさらに傾倒

渡辺は、大学生の飯山に強く惹かれる。彼女は知的で、社会問題にも積極的に関わる行動力を持つ人物だ。しかし、渡辺は彼女と会話を重ねるうちに、自分との知識や教養の差を痛感し、強い劣等感を抱くようになる。

最初のうちは、彼女と話すことで自分も成長できるのではないかと期待していた。しかし、彼が「論理的に考えているつもり」で発した言葉が、飯山には的外れに映ることが多く、次第にすれ違いが生じていく。そして、ある日、彼は彼女にとって「ただの取材対象の一人に過ぎなかった」ことを知り、大きなショックを受ける。

それまで渡辺は、「飯山は自分のことを特別視してくれているのではないか」と密かに期待していた。しかし、その期待が打ち砕かれたことで、彼の心の支えが失われる。この失恋をきっかけに、彼はますます陰謀論へと傾倒していく。

彼は「自分を認めてくれなかった社会が間違っている」と考え、FACTの活動にのめり込むようになる。特に、先生の言葉を無条件に信じるようになり、陰謀論の理屈を自らの拠り所とする。渡辺にとって、陰謀論は単なる「情報」ではなく、自分の価値を証明するための手段になってしまうのだった。

ネタバレ③ 「先生」の正体は単なる虚言癖の男

陰謀論コミュニティ「FACT(東京S区第二支部)」の指導者である「先生」は、渡辺圭吾を「選ばれし者」として特別扱いする。しかし、その言葉は単なる嘘であり、渡辺を操るための策略だった。

先生は、カリスマ的な話術を駆使し、「世界は隠された真実に支配されている」と説く。しかし、実際には彼自身が何か特別な情報を持っているわけではない。むしろ、彼の語る陰謀論はどれも曖昧で具体的な証拠がなく、ただのこじつけに過ぎなかった。

最も衝撃的なのは、渡辺が彼に疑問を抱き始めたときの言葉である。先生はこれまでの言動を翻し、渡辺に向かって「君は馬鹿で芯がなくて流されやすいから選んだ」と冷たく言い放つ。この発言により、渡辺は自分がただ操られていただけだったことを思い知らされ、絶望する。

さらに、渡辺は「選ばれし者」という言葉が自分だけに向けられたものではなく、過去にも何人もの若者に同じことを言い、取り込んでいた事実を知る。彼が信じていた「先生」は、単なる虚言癖の男であり、陰謀論を利用して他者を支配することに快感を覚える人間だったのだ。

この真実を知った渡辺は、先生の言葉やFACTの活動がいかに空虚なものだったのかを理解する。しかし、それまでの時間をすべて注ぎ込んでしまった彼は、簡単には現実を受け入れられず、深い葛藤に苦しむことになる。

ネタバレ④ 渡辺の陰謀論は「考察」という名の自己暗示

陰謀論コミュニティ「FACT(東京S区第二支部)」では、陰謀論をただの思い込みではなく、「考察」として理論的に見せかける手法が教えられる。その中核となるのが、「展開→発見→接続」という思考の流れである。

この手法では、まず「展開」として何らかの情報や出来事を提示する。次に「発見」の段階で、それが「隠された真実」の証拠であるかのように結びつける。そして最後に「接続」によって、それらをつなぎ合わせ、一つの大きな「真実」として語る。これにより、信じたいものだけを信じる構造が完成する。

例えば、渡辺は「世界は支配されている」という前提を持ち、それに合致する都合の良い情報だけを集める。たまたま自分の身の回りで起こった偶然の出来事も、すべて陰謀の一部であるかのように解釈してしまう。その結果、彼の世界観は次第に「自分だけが真実を知っている」という誤った自己認識へと変化していく。

しかし、この「考察」とは結局のところ自己暗示に過ぎない。本来であれば冷静に判断すべき事実を、自分に都合の良い形で解釈し続けることで、次第に現実とのズレが大きくなっていく。にもかかわらず、「FACT」のメンバーはこれを知的な行為と錯覚し、ますます自分たちの世界観にのめり込んでしまう。

渡辺もその例外ではなく、気づけば陰謀論に浸りきった思考を持つようになってしまう。そして、そこに疑問を抱いたときには、すでに抜け出すのが難しい状態になっていた。

ネタバレ⑤ 「陰謀論にはまる人は頭が悪いわけではない」

一般的に、陰謀論を信じる人は「頭が悪い」と思われがちだが、物語ではその単純なイメージを覆す描写が多く見られる。陰謀論にはまる人の特徴は、知識がないわけではなく、むしろ一定の知識を持っているが、その知識を偏った解釈でつなぎ合わせてしまう点にある。

渡辺も、まさにこのタイプである。彼は「論理的思考に自信がある」と思い込んでおり、陰謀論を「考察」することで、自分が知的な存在であることを証明しようとする。しかし、その実態は「都合の良い情報だけを集め、自分にとって気持ちのいい結論へと導く思考のクセ」に過ぎなかった。

また、物語の中では「承認欲求を満たすために陰謀論を信じる」心理も描かれる。渡辺は社会で評価されず、周囲から認められない現実に苦しんでいた。その孤独を埋めるように、「FACT」のメンバーと交流し、「選ばれし者」として扱われることで、自己肯定感を得ていく。これは「陰謀論のコミュニティが持つ魅力」として、多くの人が陥るポイントでもある。

さらに、彼は「陰謀論を信じることで、自分の苦しい現実を他者のせいにできる」と感じていた。努力が報われないのは社会の構造が悪いから、自分が成功できないのはディープステートが仕組んでいるから、と考えることで、社会に対する不満をうまく消化していたのだ。

こうした描写から、陰謀論に引き込まれる人々が単なる無知ではなく、むしろ自分の人生に意味を持たせようとする過程で、その「考えやすい解釈」に囚われてしまうことが示されている。この点が、本作のリアリティを生み出している大きな要因の一つである。

ネタバレ⑥ 渡辺が陰謀論から目覚める決定的な瞬間

渡辺が陰謀論から目を覚ますきっかけとなったのは、「先生」と呼ばれる人物の演説中の涙でした。陰謀論コミュニティ「FACT」の指導者であり、常に自信満々で周囲を煽動してきた「先生」が、演説中に不意に涙を見せる場面があります。この予期しない感情の露出に、渡辺は強い違和感を覚えます。

このとき、渡辺は「先生」もまた自分自身を納得させるために、陰謀論を利用していたのではないかという疑念を抱きます。普段から他人を操り、虚言を駆使してきた「先生」が、涙を流したという事実は、彼自身が信じたかった何かがあったことを示唆していました。この瞬間が、渡辺にとっての決定的な目覚めの瞬間となります。

渡辺は、この出来事を通じて、自分自身もまた陰謀論という「虚構」に逃げ込んでいたことを認識します。現実の厳しさから目を背け、「選ばれし者」としての特別な存在であるかのように振る舞うことで、自分の無力感や孤独感を埋めようとしていたのです。

結果として、渡辺は「FACT」を離れ、自分の足で立ち直る決意を固めます。この決断により、彼は自分の人生を再び見つめ直し、現実と向き合う力を取り戻すのです。陰謀論からの脱却は、単なる知識や理論ではなく、人間的な感情の揺らぎがきっかけであることが、本作を通じて示されています。

このようにして、渡辺は自己欺瞞から解放されるとともに、他者の言葉に振り回されない強さを身につけることになります。読者にとっても、この場面は自分の弱さを見つめ直すきっかけとなる、非常に印象的なシーンとなっています。

ネタバレ⑦ 渡辺の成長と「世界は変わらない」現実

物語のラストで、渡辺は陰謀論の幻想から抜け出し、現実と向き合う決意を固めます。かつての自分は、陰謀論にのめり込むことで「特別な存在」になれると信じ、現実の自分の無力さを覆い隠していました。しかし、「先生」の涙や、陰謀論コミュニティの実態を知ることで、何かを信じることで世界が変わるわけではないと悟るのです。

その象徴的な場面が、飯山への再告白でした。渡辺は彼女に対して、これまでの自分の間違いを認めたうえで、もう一度気持ちを伝えます。しかし、飯山は「付き合えません」とはっきり断るのです。この瞬間、渡辺は初めて真正面から「拒絶」という現実を受け入れることになります。

ここで示されるのは、陰謀論を信じたからといって世界は変わらないし、自分の思い通りになることもないという厳しい現実です。陰謀論に依存していた頃の渡辺は、すべてを「社会の陰謀」や「選ばれた自分の使命」とこじつけて解釈し、都合の悪い事実から逃げていました。しかし、飯山の拒絶によって、彼は初めて「自分の人生は、自分でどうにかしなければならない」と気づきます。

このラストシーンは、陰謀論という「逃げ道」から抜け出し、現実を生きることの意味を強調しています。社会の仕組みや自分の立場がすぐに変わるわけではないが、それでも自分がどう生きるかは、自分で決められるというメッセージが込められているのです。

読者にとっても、この結末は苦いものかもしれません。しかし、単なる「陰謀論批判」ではなく、陰謀論に頼らず、自分の足で人生を歩むことの大切さを示す、強いメッセージ性を持つラストとなっています。

【ようこそfactへ】ネタバレを含む感想など

なぜ人気？読者の評価と感想をまとめてみた

「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」は、独特なテーマ設定とリアルな心理描写で多くの読者を引きつけています。特に、陰謀論という現代社会で話題になりやすいテーマを軸に、主人公・渡辺の成長を描いた点が、多くの共感と議論を生んでいます。ここでは、読者の評価や感想をもとに、その人気の理由を詳しく解説します。

1. リアルすぎて苦しくなるほどの心理描写

本作の最大の特徴は、陰謀論にハマる人々の思考過程をリアルに描いていることです。渡辺は、最初こそ一般的な若者ですが、少しずつ陰謀論に取り込まれていきます。その流れがあまりにも自然で、「自分にも似た経験がある」と感じる読者が多いようです。

特に、ネットやSNSの情報を信じすぎてしまう心理や、知識のある人との会話が噛み合わない場面などは、「共感性羞恥を感じる」「読んでいて辛い」との意見が多数あります。しかし、それだけ登場人物の心理描写が優れていることの証明でもあります。

2. 「知識」や「論理」の落とし穴を描いた作品

本作では、ただの陰謀論ではなく、「知識を持っているはずの人間が、いかに間違った方向へ進んでしまうのか」が丁寧に描かれています。渡辺は、自分では論理的に考えているつもりですが、実際には都合のいい解釈をしてしまうことが多く、その結果どんどん陰謀論に引き込まれます。

このテーマは、現代社会の情報リテラシーにも通じる部分があり、「考えさせられる作品だった」「ネットの情報に惑わされないようにしようと思った」との感想も多く見られます。

3. 飯山との関係性に引き込まれる

渡辺が想いを寄せる飯山は、彼とは対照的に知識と教養を兼ね備えた大学生として描かれています。渡辺は彼女に憧れつつも、その差を実感し、劣等感を募らせていきます。この関係性が作品のもう一つの大きな軸になっており、恋愛要素と社会格差のテーマが絡み合う構成が評価されています。

飯山が渡辺をどう思っているのか、そして渡辺の想いがどこへ向かうのかが、読者の興味を引き続けます。特に、最終巻での飯山の「付き合えません」という一言には、多くの読者が「これがリアル」「いい意味で突き放したラスト」と感じたようです。

4. 「先生」というキャラクターの不気味さ

陰謀論コミュニティ「FACT」の指導者である「先生」の存在も、本作の大きな魅力の一つです。彼はカリスマ的な言葉で人を引き込むものの、その実態はただの虚言癖のある男であることが後に明かされます。この展開が、「怖いけど目が離せない」「現実にもいそう」と話題になりました。

特に、最終盤で「君は馬鹿で芯がなくて流されやすいから選んだ」と渡辺に言い放つ場面は、多くの読者に衝撃を与えました。

5. 陰謀論からの脱出と成長

最後に、多くの読者が評価しているのが、渡辺が陰謀論から抜け出し、「世界は変わらないけれど、自分自身は変われる」というメッセージを受け取ることです。

最終的に、渡辺は飯山に再び告白するものの、振られてしまいます。しかし、彼はそれを受け止め、自分の人生を歩もうと決意します。この結末に対して、「陰謀論の危険性を描くだけでなく、抜け出した先の未来も示してくれた」「すっきりとしたラストだった」との声が多くありました。

まとめると、「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」は、リアルすぎる心理描写、陰謀論の仕組みの解説、社会的なテーマの奥深さなど、さまざまな要素が絡み合い、読者を惹きつける作品となっています。

単なる陰謀論マンガではなく、人間の弱さや成長を描いた物語として、多くの人に考えさせる内容になっていることが、この作品の人気の理由といえるでしょう。

ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へは何巻までありますか？最新刊は？

「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」は、全4巻で完結しています。連載は裏少年サンデーコミックスで行われ、4巻が最終巻となりました。

最新刊である第4巻は2024年6月に発売されました。この巻では、主人公・渡辺が陰謀論の世界にどっぷり浸かりながらも、次第に現実と向き合い始める様子が描かれています。特に「先生」との関係性が決定的に崩れる場面や、飯山との再会、そして陰謀論から抜け出すまでの過程が大きな見どころとなっています。

すでに完結しているため、最初から最後まで一気に読むことが可能です。また、長すぎない全4巻という構成も、多くの読者にとって手に取りやすいポイントになっています。

作者・魚豊の語る「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」

魚豊はこれまで、『ひゃくえむ。』では100m走、『チ。—地球の運動について—』では地動説といった、漫画の題材としては珍しいテーマを選び、それを独自の視点で描いてきました。そして今回の『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』では、「陰謀論と恋愛」 という一見すると関連性のない二つの要素を掛け合わせています。

この作品の背景には、作者自身が持っていた陰謀論への興味と、社会学者・石戸諭の論考『陰謀論者は深読みしすぎている』からの着想があります。陰謀論にハマる人は、ある出来事を必要以上に深読みし、自分の都合のいい解釈を重ねる 傾向があります。この性質は、実は「恋愛」においても同じことが言えます。人は好きな相手の些細な言動を深く考えすぎたり、「もしかして自分のことを意識しているのでは？」と無意識に都合の良い解釈をしてしまうことがあります。こうした心理を陰謀論と恋愛という二つの要素で描くことで、物語が単なる陰謀論の批判ではなく、より多くの読者にとって身近に感じられるものになっています。

「社会の不安」としての渡辺、「新しい価値観」としての飯山

物語の主人公・渡辺は、工場で非正規雇用として働く19歳の青年です。学歴もなく、社会的な立場も弱い彼は、将来の見通しが立たず、漠然とした不安を抱えながら日々を過ごしています。「このままでいいのか？」と悩みながらも、何をすればいいのかわからない。 そんな漠然とした不安を抱える若者の姿は、現代社会において決して珍しいものではありません。

一方で、ヒロインである飯山は大学生であり、社会問題に関心が高く、知的で行動力のある女性として描かれています。彼女は「意識高い系」の典型的なキャラクターのように見えますが、作者は彼女を冷笑的に描くのではなく、社会に対して積極的に行動する姿を肯定的に描いています。

この二人の対比は、現代社会における「情報格差」や「社会構造の違い」を象徴しています。渡辺のように、情報を得る機会が少なく、社会の仕組みに不信感を抱いている人は陰謀論にハマりやすい傾向があります。一方、飯山のように知識が豊富で情報を取捨選択できる立場の人間は、陰謀論の危険性を理解しており、それに巻き込まれない。この格差がどのように生まれ、どのような結果をもたらすのか が物語の軸となっています。

「陰謀論にハマる心理」と「人間が求める居場所」

渡辺が陰謀論にのめり込んでいく過程では、「認知バイアス」が強く描かれています。人は自分が見たい情報だけを選び、都合の悪い事実には目を向けない傾向があります。そして、「先生」と呼ばれる指導者の存在が、彼にとっての拠り所となり、社会の不安から逃れる手段となっていきます。

陰謀論コミュニティ「FACT」の内部では、「君たちは選ばれし者だ」「世の中の真実を知ることができる」 といった言葉が繰り返されます。これは、多くの陰謀論団体やカルト宗教が信者を引き込む際に用いる手法とよく似ています。渡辺は、社会で認められない自分を受け入れてくれる「FACT」に強く依存し、そこに自分の居場所を見出していきます。

しかし、物語が進むにつれ、彼は「先生」や「FACT」の矛盾に気づき始めます。最終的に、先生は「君は馬鹿で芯がなくて流されやすいから選んだ」と告げ、渡辺は自分がただの駒にすぎなかったことを悟ります。陰謀論は「真実を知る」ものではなく、自己を肯定するための幻想だった ことを理解する瞬間です。

「陰謀論を信じても世界は変わらない」ラストの意味

最終的に、渡辺は陰謀論から抜け出します。しかし、それによって社会が劇的に変わるわけではありません。ラストでは、彼が飯山に改めて告白するものの、彼女からは「付き合えません」とはっきり断られます。これは、陰謀論を捨てたからといって「すぐに幸せが手に入るわけではない」という現実を示しています。

陰謀論は、多くの人にとって「世界を変えられるかもしれない」という希望のように見えます。しかし、実際には陰謀論を信じても何も変わらず、結局は自分自身の現実と向き合うしかない のです。渡辺の成長とは、「陰謀論の外にある現実を受け入れること」でした。これは、読者に対しても強いメッセージとなっています。

魚豊が描く「言葉の力」と「社会の問題」

魚豊の作品には、常に「言葉の力」と「社会の問題」がテーマとして存在します。『チ。』では「真実を追い求めること」の意義が描かれましたが、本作では「真実を歪めることの危険性」がテーマとなっています。

さらに、魚豊は「普遍的な問題を描く」ことを重要視しており、本作でも「現代だけの問題ではなく、人類が抱え続けてきた不安」を物語に落とし込んでいます。陰謀論の問題は、SNSの普及によってより顕著になったものの、根本的には「人間の心理」に根ざしたものであり、決して新しいものではありません。

また、本作では「本音で語ることの大切さ」も強調されています。現代社会では、「愛」や「希望」といったシンプルな言葉が冷笑されがちですが、魚豊は「そうした言葉の力を取り戻すことも、物語の役割の一つ」と考えています。

「漫画だからこそ伝えられること」

魚豊は、漫画という媒体だからこそ伝えられる社会的テーマがあると考えています。本作のように、陰謀論という難しいテーマを扱いながらも、エンタメ要素を取り入れ、キャラクターの感情を読者に伝えることで、「陰謀論とは何か？」を体感できる作品 になっています。

陰謀論は単なる「馬鹿な人が騙される話」ではなく、「誰もが陥る可能性のあるもの」 であり、それを通じて現代社会の問題に目を向けるきっかけを作ることが、この作品の大きな目的の一つです。

魚豊は次回作について、「人間に対して本質的に重要なテーマを扱いたい」と語っています。これまで「個人」「社会」「世界」とテーマを広げてきた彼が、次にどのような視点で物語を紡ぐのか、今後の作品にも期待が高まります。

ようこそfactへ！を読み終えたあなたにおすすめの作品３選を紹介

『ようこそfactへ』が描いた社会問題やリアルなテーマに共感した読者の方に、さらに考えさせられる作品を３つご紹介します。いずれも、現代社会の闇や人間の本質に迫る作品で、強いメッセージ性を持っています。

① この世は戦う価値がある

「限界OLが自分の人生を取り戻すリベンジストーリー」

社会人3年目の主人公・伊東紀理は、セクハラが蔓延する職場やモラハラ彼氏に苦しみながら、「人の役に立ちたい」という想いで日々を生きています。しかし、そんな日常に限界を感じた彼女に一通の封書が届き、そこに書かれていた内容が彼女の人生を大きく変えるきっかけとなるのです。

この作品は、現代社会で自己を犠牲にして生きる多くの人が抱える葛藤や「やり直したい」という気持ちに共感する内容です。特に、社会問題に興味がある方や、「自分を取り戻すためのリベンジ」というテーマに惹かれる方におすすめです。

② 東京貧困女子。

「女性が貧困に陥るリアルな現実を描いた社会派ノンフィクション」

ごく普通の女性たちが、さまざまな事情から貧困に追い込まれ、最終的に風俗業で働くことになるまでの物語です。高額な学費、家庭の事情、ホストへの依存など、それぞれの理由が描かれています。

この作品は、単なるエンターテインメントではなく、実際の出来事を基にしたコミカライズです。原作は東洋経済オンラインで人気を博した連載『東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか』。現代の日本社会における貧困問題や格差について深く考えさせられます。

『ようこそfactへ』と同様に、「社会問題や人間の弱さ、格差」をリアルに描いた物語に興味がある方にぴったりの作品です。

③ スマイリー

「新興宗教をテーマにした戦慄のサスペンス」

主人公の鴨目友司は、愛する娘を事故で失い、絶望の日々を送っていました。妻も去り、抜け殻のようになった彼のもとに新興宗教「心笑会」のチラシが届きます。そこには行方不明だった妻の姿が写っており、彼は真相を探るために教団の闇に踏み込んでいくことになります。

この作品は、宗教の名の下に行われる狂気的な行動や、人間の信仰と絶望の心理を描いています。『ようこそfactへ』と同じく、「現代社会の問題や裏側」「宗教的な組織への盲信や依存」をテーマにした作品で、心を揺さぶる衝撃的な展開が特徴です。

ネタバレ：ようこそfactへ！まとめ

• 主人公・渡辺は19歳のフリーターで陰謀論にのめり込む
• 知識や学歴の差に悩み、飯山への恋心が劣等感を生む
• 先生という男に「選ばれし者」と持ち上げられ、FACTに傾倒
• 陰謀論を「考察」と称し、自己暗示を強めていく
• FACTの活動で自信をつけるが、次第に現実との乖離が広がる
• 飯山に「ただの取材対象」と言われ失恋、陰謀論への依存が加速
• 先生の正体は虚言癖の男で、渡辺は操られていただけと知る
• 陰謀論にハマる人は無知ではなく、認知の歪みが原因
• 陰謀論を信じても世界は変わらず、孤独が深まる
• 先生の涙を見て、渡辺は陰謀論の欺瞞に気づく
• FACTを抜け出す決意をし、現実と向き合い始める
• 飯山に再告白するが、はっきりと拒絶される
• 陰謀論を捨てても人生が劇的に好転するわけではない
• 「知ること」と「信じること」の境界を描く作品
• 読者に情報の取捨選択や考え方を問う社会派ストーリー