【ちいさいひと 青葉児童相談所物語】第1話をネタバレありでわかりやすく解説する

【ちいさいひと】第1話をネタバレありでわかりやすく解説する
希望に胸を膨らませる新米児童福祉司の青年と、誰にも気づかれず静かに追い詰められていく幼い少女。 今回は、二つの対照的な物語が交錯し、息もつかせぬ展開で読者の心を掴む【ちいさいひと】第1話「予兆」のあらすじと見どころを、ネタバレありで徹底的に解説していきます。
新米児童福祉司・相川健太、希望と現実の幕開け
物語は4月1日、桜が舞う季節から始まります。
主人公の相川健太(あいかわ けんた)は、今日から青葉市児童相談所で働くことになった22歳の新米児童福祉司です。
「児童相談所っていうのは…わかりやすく言うと、子どもたちを虐待や育児放棄から助け出す所だ」。
健太は、長年の夢を叶える場所であるこの職場で、大きな希望に満ちあふれていました。
隣には、同じく新米で一時保護所の保育士として働く同期の長澤彩香(ながさわ あやか)がいます。 彩香は、健太の曲がったネクタイを「ビシッとしないと!」と直してあげるような、しっかり者の一面を見せます。 一方で健太は「オレこーゆー細かいこと苦手で…」と照れ笑いを浮かべ、彼の朗らかで少し不器用な人柄がうかがえます。
しかし、健太のモノローグは、これから始まる物語が平穏ではないことを静かに告げていました。 「そうやってオレがこの青葉児童相談所にやってきた日…実はもう見えない所で事件は動き出していた。この時はまだそんなことは知る由もなかった…」
この言葉通り、健太が新しい一歩を踏み出したその裏側で、すでに一つの悲劇が静かに始まっていたのです。
静かに始まった二つの物語
見えない場所で動き出す事件
健太たちの希望に満ちた初日とは対照的に、薄暗い部屋で一人、母親の後を追う幼い少女の姿が描かれます。 「待ってて…ママ…」
少女が必死に呼びかける声もむなしく、母親はドアを閉ざしてしまいます。ドアの鎖越しにコンビニの袋のようなものを渡しながら、母親は顔も見せずに冷たく言い放ちます。 「ごはんと食べないで、ちゃんと愛莉とわけなさい…愛莉の面倒もちゃんと見るのよ わかった?」
少女はか細い声で「そしたら…ランドセル…買ってくれるんだよね?」と問いかけます。 小学校への入学を夢見る、子供らしい切実な願いです。
しかし、その願いが届くことはありません。部屋の中はゴミで散らかり放題で、奥のベビーベッドでは赤ん坊の愛莉(あいり)が泣いています。 少女はたった一人で、泣き続ける幼い妹を「泣かないで」とあやすのでした。 この時点で、姉妹が育児放棄(ネグレクト)という過酷な状況に置かれていることが痛いほど伝わってきます。
新しい職場と危険な兆候(サイン)
場面は児童相談所に戻り、健太と彩香は副所長の藤井をはじめ、個性豊かな職員たちに紹介されます。 そして翌日、健太は副所長から「NWミーティング」への参加を命じられます。
これは、児童相談所や保健所、警察といった関係機関が、それぞれが持つ情報を共有し、事件の見落としを防ぐための重要な会議です。
会議が終わった後、保健師の深津(ふかつ)という女性が、職員の塚地(つかじ)に相談を持ちかけます。 「ちょっと…気になる家族がいて……子どものお母さんになかなか会えないんです…」
その家族とは、1歳6か月の愛莉ちゃんがいる「佐藤家」でした。深津と塚地は早速その家を訪れますが、そこはガレージ付きの立派な豪邸です。
しかし、インターフォン越しに応対した母親・涼子(りょうこ)の態度は、家の立派さとは裏腹に非常に高圧的でした。愛莉ちゃんが1歳6か月児健診を受けていないことを伝えても、「元気なのでご心配なく!!!!」の一点張り。 さらに深津が、愛莉ちゃんに摂食障害(うまく食べたり飲んだりできないこと)の疑いがあることを指摘すると、涼子は逆上します。
「私が嘘ついてるとでも言うんですか!?」
結局、二人は玄関先で追い返されてしまいました。塚地は「これだけ裕福なら、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ」と楽観的な態度を見せますが、深津の表情は晴れません。 この「裕福だから大丈夫」という思い込みが、後に取り返しのつかない事態を招く危険な兆候(サイン)だったのです。
幼い姉妹に迫る命の危機
塚地たちが帰った後、家の中では涼子が義母らしき女性と激しい口論を繰り広げていました。 義母に夜遊びをとがめられた涼子は、「うるさい!!! 私が誰と何しようと勝手じゃない!!!」と叫び、莉子が愛莉の面倒を見ているから問題ない、と開き直ります。
そして翌日の4月3日、事態はさらに悪化します。
涼子はついに家を出ていきました。莉子に携帯番号を教え、「ママ…もう帰ってこないから。愛莉の事お願いね…」という衝撃的な言葉を残して。 「いい子にしてたらランドセル買ってあげるから…」という、もはや守られることのない約束だけをちらつかせて。
完全に置き去りにされた莉子は、床に散らばったハンバーガーやポテトを拾い集め、それを幼い愛莉にも与えようとします。 その姿は、あまりにも痛々しく、悲惨です。
その夜、健太たちの歓迎会が開かれている頃、佐藤家では愛莉の命が危険に晒されていました。
莉子がご飯をあげていると、愛莉が食べ物を喉につまらせてしまいます。 パニックになった莉子は、震える手で母親に電話をかけ、必死に訴えます。
「もしもしママ!愛莉がね…愛莉が…泣かなくなっちゃったの」
しかし、電話の向こうの母親は、男と楽しげにしており、「よかったじゃない、静かになって…」と信じがたい言葉を返すと、一方的に電話を切ってしまうのでした。
過去の傷と繋がったSOS
数日が経過し、健太も少しずつ仕事に慣れてきた頃、一本の電話が児童相談所にかかってきます。 電話を取った健太の耳に飛び込んできたのは、ヒステリックな女性の声でした。相手は、佐藤涼子本人です。
「いい加減にしてよ、毎日毎日家に来るなんて!!」
涼子は職員の訪問に激しく抗議し、「お子さんは本当に元気なんですか」という健太の問いにも「元気よ!!! ちゃんと親子三人で暮らしてるわよ!!」と見え透いた嘘をつきます。
その時でした。電話の向こうから、か細い子供の声が聞こえてきます。「ママ…」。
その声に激高した涼子は、電話口で怒鳴りつけます。 「なんなのよもう!!!!あんたのせいで、イライラする事ばかりなのよ!!!!!!」
この言葉が引き金となり、健太の脳裏に、封じ込めていた自身のつらい過去が鮮明に蘇ります。 母親から虐待を受け、「健太なんか産まなきゃよかった!!!!」と罵倒された記憶。
電話の向こうの少女が発したであろう「たすけて…」という心の叫びが、過去の自分の叫びと重なります。
それまでの穏やかな表情から一変、健太は電話の向こうで起きている異常事態を確信します。 「胸騒ぎがした……誰かが助けを求めている…」
「早く何か手を打たなければ…取り返しのつかない事になる……」
自らの痛みを通じて、見えない子どものSOSを確かに感じ取った健太。彼の強い決意の表情で、物語は次話へと続きます。
【ちいさいひと】1話を読んだ感想(ネタバレあり)
第1話から、胸が締め付けられるような重いテーマを真正面から描いており、一気に物語の世界に引き込まれました。 最も印象的だったのは、主人公・健太の希望に満ちたスタートと、その裏で静かに進行する莉子と愛莉の絶望的な状況の対比です。この巧みな構成によって、児童虐待という問題が、私たちの日常と隣り合わせにあるのだという現実を突きつけられたように感じます。
塚地さんの「裕福だから大丈夫」というセリフには、思わずハッとさせられました。これは、多くの人が無意識に持ってしまいがちな偏見かもしれません。外見や経済状況だけでは、家庭内の問題の深刻さは決して測れないという、この作品が持つ重要なメッセージの一つだと感じます。
そして何より、主人公の健太自身が虐待のサバイバーであったという事実に衝撃を受けました。彼の過去の痛みが、これから出会う子どもたちを救うための「強さ」や「共感力」に繋がっていくのかもしれないと思うと、今後の展開から目が離せません。 母親に置き去りにされ、必死に妹を守ろうとする莉子の健気な姿には、涙が出そうになります。彼女が夢見る「ランドセル」が、彼女のささやかな幸せの象徴としてあまりにも切なく、どうかこの姉妹が救われてほしいと心から願わずにはいられませんでした。
ただつらいだけでなく、健太という光を通して、かすかな希望も感じさせてくれる。そんな深みのある第1話でした。
【ちいさいひと】1話のネタバレまとめ
- 新米児童福祉司の相川健太が、希望を胸に青葉市児童相談所で働き始めます。
- その裏で、莉子という名の少女が母親(涼子)から育児放棄され、幼い妹・愛莉の面倒を一人で見ていました。
- 1歳6か月児健診を未受診の佐藤家を職員が訪問しますが、母親は面会を頑なに拒絶します。
- ついに母親は家を出てしまい、残された姉妹は命の危機に瀕します。 助けを求める莉子の電話も、母親は冷たく切り捨てました。
- 母親からの抗議の電話を受けた健太は、自身の被虐待体験の記憶と、電話の向こうの子供のSOSが重なり、事件の深刻さを確信します。
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