【傷ついた心に帰る場所はない】5話あらすじから結末まで全てネタバレ解説

ずっちー
前話のおさらい
  • 衰弱して帰宅したベラを、家族は「役立ず」と罵倒し、その苦しみを全く意に介しませんでした。
  • 姉のパールは、ベラを庇うふりをしながら自身の優しさを演出し、その言葉に乗じてヘンリーがベラの存在価値そのものを否定します。
  • 度重なる言葉の暴力に耐えかねて立ち去ろうとするベラを、恋人であるドミニクが謎めいた表情で呼び止めたところで、第4話は終わりました。

【傷ついた心に帰る場所はない】第5話をネタバレありでわかりやすく解説する

偽りの同情と悲劇のヒロイン

物語は、ドミニクがベラの腕を掴んだ、息が詰まるほどに緊迫した場面から静かに再開します。しかし、ベラの心は、もはやどんな刺激にも反応しない極北の氷原のように、静かに、そして固く凍てついていました。

「あなたの偽りの同情なんて、もういらないわ」彼女は声には出さず、ただ心の中で静かに、そして決定的にドミニクを拒絶します。もはや彼の見せかけの優しさが、全ては姉パールのためだけの打算に過ぎないことを知ってしまった今、その言葉も、その肌の温もりも、彼女の心には一切響かないのです。

一方のドミニクは、そんなベラの氷のような豹変ぶりに、当惑を隠すことができません。「なんであんなに冷たいんだ?」「何か…様子がおかしい…」。彼は、自分の嘘が完璧に機能しており、ベラが何も知らない純粋な少女のままだと信じ込んでいるのです。この致命的なまでの鈍感さと自己中心的な思考こそが、彼がベラの心をどれほど深く傷つけてきたかの証左に他なりません。

その二人の間に流れる不穏な空気を敏感に察知したのか、姉のパールが、まるで舞台の上に立つ主演女優のように、絶妙なタイミングで悲しげな表情を浮かべ、か細い声でつぶやきます。「全部…わたしのせいなのね…」。彼女は、常に自分が物語の中心であり、周囲の同情と関心を一身に集める悲劇のヒロインでなければ気が済まないのです。この計算され尽くした一言は、ドミニクの意識をベラから自分へと巧みに引きつけ、場の主導権を完全に掌握するための、見事な一手でした。

歪んだ肯定と存在理由の刷り込み

パールの自己憐憫に満ちた言葉に、待ってましたとばかりにヘンリーが反応します。「君のせいじゃないさ」と、これ以上ないほど優しく慰めながら、彼はパールの罪悪感を魔法のように拭い去ると同時に、その全ての非をベラ一人に押し付けます。そして、この家族の根底に深く、そして醜くこびりついている、恐ろしい共通認識を、まるで世界の真理であるかのように口にするのです。

「ベラがこの地球(ほし)にいる唯一の理由は、君のためなんだ」

この言葉は、もはや単なる侮辱や暴言の域を超えています。ベラという一人の人間から、生まれながらにして与えられるはずの自由な意思や、人生の目的を持つ権利を根こそぎ奪い取り、その存在理由を「パールのための道具」であると定義づける、長年にわたって繰り返されてきた精神的虐待(ガスライティング)の醜い根幹そのものでした。

壊された絆:過去の追憶

ヘンリーの残酷極まりない言葉は、ベラの意識を、遠い過去の記憶の扉へと引きずり込みます。それは、今とは全く違う、穏やかで幸せな光に満ちていた頃の記憶。両親が、まだ幼いベラに、愛情のこもった眼差しで、可愛らしいおもちゃを優しく手渡している光景でした。

「パパ、ママ、これ、ほんとうにわたしの?」

「もちろんだよ、お前も私たちのかわいい娘だからな」。

この温かなやり取りは、ベラにも、少なくともかつては一人の人間として、愛情が注がれていた時期があったことを確かに示唆しています。しかし、この暖かな光の記憶があるからこそ、これから語られる深い闇の悲劇が、より一層際立つことになるのです。

嫉妬が生んだ最初の悲劇

しかし、その幸せに満ちた光景を、部屋の隅から暗く淀んだ瞳で見つめる少女がいました。姉のパールです。「ママとパパは、わたしが一番だって言ったもん」「パパとママの愛は、全部わたしのものじゃなきゃイヤ」。彼女の幼い心の中では、妹に向けられるほんのわずかな愛情さえも許すことができない、強烈な独占欲と嫉妬の黒い炎が、静かに、しかし激しく燃え上がっていたのです。

そして、その黒い感情は、幼い少女が考え出したとは思えないほど、恐ろしく狡猾な策略となって実行に移されます。パールは、両親が仕事から帰宅するその絶妙なタイミングを見計らい、まるでベラに突き落とされたかのように見せかけて、自ら階段から身を投げ出したのです。

落ちながら、彼女は計算通りに甲高い悲鳴を上げます。「ベラ、なんで押すのっ!」。必死に無実を訴えるベラの「ちがう、押してないよ!ほんとだよ!」という魂の叫びは、愛娘が傷つけられたと思い込んだ両親の耳には、もはや届きませんでした。

理不尽な罰と歪んだ愛情

両親は、目の前で繰り広げられた衝撃的な光景と、涙ながらに痛みを訴えるパールの姿を疑うことなく信じ込み、「パパたちは、この目でちゃんと見たんだぞ」と、ベラの言葉を冷たく、そして一方的に断罪します。そして父親は、怒りに顔を歪ませながら、幼いベラに理不尽の極みともいえる言葉を叩きつけました。

「なんて子だ、お姉ちゃんに嫉妬するなんて!お前がここにいるのは、お姉ちゃんのおかげなんだぞ!」

ここでもまた、ベラの存在意義はパールのためであるという、呪いのような論理が振りかざされます。そして、この濡れ衣に対する罰は、あまりにも過酷で非人道的なものでした。「ここで頭を冷やしなさい。罰として三日間、ご飯は抜きだ」。

幼いベラが暗く冷たい部屋で、恐怖と空腹に震えながら耐えている一方で、パールは両親から「さあお食べ、パール。怖い思いをしたものね」と、これ以上ないほど優しく食事を与えられていました。この過去の出来事こそ、二人の姉妹の運命を決定的に分かち、ベラの自己肯定感を根こそぎ奪い去った、この家族における最初の、そして最も根深い悲劇だったのです。

【傷ついた心に帰る場所はない】5話を読んだ感想(ネタバレあり)

今回の第5話は、この家族の歪みが一体どこから始まったのか、そのおぞましい「原点」が描かれた、非常に重要で、そして読んでいて胸が苦しくなる、忘れられない回でした。これまでの物語で仄めかされてきたパールのキャラクターの深層心理が、過去の回想を通じて、これ以上ないほど鮮明にえぐり出されたように感じます。

特に、幼いパールの行動には、可愛らしさの裏に隠された悪魔性に戦慄を覚えました。彼女は単に病弱で甘やかされた姉ではなく、両親の愛を独占するためならば、妹を策略によって陥れることも、自らの体を傷つけることすら厭わない、強い意志と目的を持った策略家だったのです。幼い子供が持つ、純粋であるがゆえの残酷さが、これほどまでに恐ろしく描かれていることに衝撃を受けました。

そして、回想シーンで描かれた両親の愚かさ、そしてベラへの仕打ちには、強い憤りを禁じ得ませんでした。幼い子供の言うことを一方的に鵜呑みにし、もう一人の子供の必死の訴えに全く耳を貸さず、食事を与えないという虐待を行う。これは、いかなる理由があろうとも、親として決して許される行為ではありません。この理不尽極まりない罰が、現在のベラの無力感や諦めに直接繋がっていることが痛いほど理解でき、彼女の境遇への同情がさらに深まりました。現在と過去が繋がったことで、この物語が単なる愛憎劇ではなく、根深いトラウマと家族という呪縛からの解放を描く、重厚な物語であることがはっきりと示されたように思います。

【傷ついた心に帰る場所はない】5話のネタバレまとめ

  • ドミニクに引き止められたベラは彼を心の中で拒絶し、その様子を見たパールは悲劇のヒロインを演じる。
  • ヘンリーはパールを慰め、ベラの存在意義はパールのためだけだと改めて断言する。
  • ベラの回想シーンで、かつては両親に愛されていた記憶と、パールの激しい嫉tooが描かれる。
  • パールはベラに押されたふりをして自ら階段から転落し、ベラはその濡れ衣を着せられてしまう。
  • 無実の罪で、ベラは両親から3日間食事を与えられないという過酷な罰を受ける。

◁前の記事はこちらから

あわせて読みたい
【傷ついた心に帰る場所はない】4話あらすじから結末まで全てネタバレ解説
【傷ついた心に帰る場所はない】4話あらすじから結末まで全てネタバレ解説

▷次の記事はこちらから

あわせて読みたい
【傷ついた心に帰る場所はない】6話あらすじから結末まで全てネタバレ解説
【傷ついた心に帰る場所はない】6話あらすじから結末まで全てネタバレ解説

ABOUT ME
コマさん(koma)
コマさん(koma)
野生のライトノベル作家
社畜として飼われながらも週休三日制を実現した上流社畜。中学生の頃に《BAKUMAN。》に出会って「物語」に触れていないと死ぬ呪いにかかった。思春期にモバゲーにどっぷりハマり、暗黒の携帯小説時代を生きる。主に小説家になろうやカクヨムに生息。好きな作品は《BAKUMAN。》《ヒカルの碁》《STEINS;GATE》《無職転生》
記事URLをコピーしました